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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
わずかに変化した澪の気配に、伍名もすっと面持ちを変える。
「お願いします……伍名様。今日のことは無かったことにして、どうかお帰りになって。……新しい洞主には、その巫女姫をお迎えになるのがよろしいでしょう。知識や能力のあるなしじゃない、器というものが人にはございます。あの御令孫がお心を開き、あなた様がお護りになり、天に坐す神々がお認めになった巫女なれば、外側ばかりか内側もご器量が良いのでしょう。その玉器を据えれば、奥社とていらぬ諍いも起きません」
「そんな──まさか!」
そこでようやく、事の次第を理解した眞前が腰を浮かす。
「黙って、眞前」
「しかし澪様!」
「いいの。お願い」
だが澪はそれを短く制止すると、膝を滑らせ改めて伍名に向き直った。しかし向き直っただけで視線を交わすことはなく、何かに耐えるように目をつむり、声を張る。
「──私はたしかに玉衣の友でした。あの頃は、彼女と肩を並べられるだけの巫女であると──厚かましくも、そんな自負もあったかもしれない。あなた様が仰ってくれたように、一本の木から咲く紅白の花として……いいえ。色が違ったからこそ、人生を共に歩む無二の友であれたかもしれない。けれど、それを枯らしてしまったのは私です。私なんです。愚かしくも、私は我が身可愛さにあの子を裏切ってしまった。そしていまだに“こんなもの”を抱いて、生きるでも死ぬでもなくあの場所に囚われている。
──だけど、これが私の罰なのです。私は私を赦せない。誰が放免の言葉を紡いでくれたとしても、私は自分が赦せないのです。あなた様の御慈悲は、私にはもったいのう存じます。そして、“枷”に玩具など不要です……」
「お願いします……伍名様。今日のことは無かったことにして、どうかお帰りになって。……新しい洞主には、その巫女姫をお迎えになるのがよろしいでしょう。知識や能力のあるなしじゃない、器というものが人にはございます。あの御令孫がお心を開き、あなた様がお護りになり、天に坐す神々がお認めになった巫女なれば、外側ばかりか内側もご器量が良いのでしょう。その玉器を据えれば、奥社とていらぬ諍いも起きません」
「そんな──まさか!」
そこでようやく、事の次第を理解した眞前が腰を浮かす。
「黙って、眞前」
「しかし澪様!」
「いいの。お願い」
だが澪はそれを短く制止すると、膝を滑らせ改めて伍名に向き直った。しかし向き直っただけで視線を交わすことはなく、何かに耐えるように目をつむり、声を張る。
「──私はたしかに玉衣の友でした。あの頃は、彼女と肩を並べられるだけの巫女であると──厚かましくも、そんな自負もあったかもしれない。あなた様が仰ってくれたように、一本の木から咲く紅白の花として……いいえ。色が違ったからこそ、人生を共に歩む無二の友であれたかもしれない。けれど、それを枯らしてしまったのは私です。私なんです。愚かしくも、私は我が身可愛さにあの子を裏切ってしまった。そしていまだに“こんなもの”を抱いて、生きるでも死ぬでもなくあの場所に囚われている。
──だけど、これが私の罰なのです。私は私を赦せない。誰が放免の言葉を紡いでくれたとしても、私は自分が赦せないのです。あなた様の御慈悲は、私にはもったいのう存じます。そして、“枷”に玩具など不要です……」