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天使さまっ!
第19章 センチメンタルジャーニー
エリン先生が私を思い出すまでは、私は知らない人として接しなければならないんだ。ドクターがいった『現状を無理に理解させない』とはそういうことだ。
エリン先生が目覚めて嬉しいはずなのに、悲しくて寂しくて不安で苦しい。
「あの子、父親以外はわからないのね」
婦長が静かに言った。呆れたように小さく笑いながら。
「父親と一緒に旅に出たのは一歳の頃。日本に来てからの記憶がないんじゃあ仕方ないわね」
「……婦長のことも、わからないんですか」
ぐずぐずと泣き声なまま私は訊いた。
「ええ。まったく見なかったわね」
特に落ち込むでもなく。やっぱり婦長は平然としていた。記憶がなくても血の繋がりがあることに変わりがないからか。
私には婦長のように毅然とは振る舞えない。きっとエリン先生を不安にさせてしまう。先生の記憶が戻るまで傍を離れたほうがいいのだろうか。泣いてばかりいる私なんか、何の役にもたたない。エリン先生の邪魔なんかしたくない。