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暁の星と月
第3章 暁の天の河
「…兄さん!」
暁が庭の潜り戸を抜け玄関の車寄せに着くと、兄、礼也が愛車のオースチンから降り立ったばかりだった。

礼也は暁の姿を認めると、その男らしく端正に整った貌を綻ばせ、長い腕を広げた。
「暁、ただいま」
暁は心臓をドキドキと高鳴らせながら、礼也の広い胸に飛び込んで行った。
「兄さん…!お帰りなさい!」
…懐かしい兄の匂いだ…。
兄からは普段愛用しているオードトワレとそしてまだ暁の見知らぬ外国の薫りがした。
「…今、着いたの?昨日?横浜から来たの?」
嬉しさの余り、矢継ぎ早に質問を繰り出す暁を礼也は優しく抱きしめる。
「昨日横浜に着いて、直ぐにこちらに向かったよ。さっき別荘に着いたからそのまま来た。…早く暁に会いたくてね…」
礼也はまるで恋人にするように、暁の額に額をつけて愛おしげに見つめる。
「元気そうだな。…いや、少し痩せたかな…?大丈夫なのか?ちゃんと食べている?お前は夏痩せしやすいのだから気をつけないと」
兄の心配性をくすぐったく思いながら、暁は蕩けるような笑顔で答える。
「大丈夫。…すごく元気ですよ…兄さん…」
…会いたかった…と呟き、礼也の貌を熱く見つめる暁の背後から声が聞こえた。

「…そう。ちょっと体調を崩したけれど、暁は元気だよ。…お帰り、礼也」
温度のない言葉に、暁ははっと振り返る。
口元には笑みを浮かべているが、その理知的な目元は少しも笑ってはいない、大紋が佇んでいた。
「ただいま、春馬。…暁が世話になっているね。ありがとう。迷惑をかけてはいないかな?」
礼也はおおらかな笑みを浮かべ、握手をする。
「…いや、ちっとも。…暁は本当に可愛いよ。…ずっとここにいて欲しいくらいだ」
大紋の強い眼差しが暁を捉える。
暁は思わず、礼也に寄り添い目を伏せる。
その様子に、大紋は胸の奥が焼け付くような妬心を覚えた。
礼也は目を見張る。
「…暁…か…。
呼び捨てするほど仲良くなったのか。それは良かった」
やや人見知りのきらいがある暁が自分の親友とはいえ、他人の家で仲良く過ごせている様子に、礼也は安堵する。
「そうさ。…暁も僕のことは春馬さんと名前で呼んでくれるようになった。ね?暁…」
大紋に顔を覗き込まれ、暁は少し緊張しながら頷いた。
「それは何よりだ…良かったな、暁…」
礼也はもう一度、暁を強く抱きしめ…ふと眉を寄せ、不思議そうな貌をした。

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