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暁の星と月
第3章 暁の天の河
礼也はもう一度、暁の首筋辺りに貌を近づける。
「…トワレを付けるようになったのか…?…春馬の匂いがする…」
暁の肩がびくりと震える。
薄桃色の唇が強張りながらも開かれた時…
「…そうなんだ。僕のトワレをプレゼントしたのさ。
…暁もそろそろ薫りのお洒落をしても良い年頃だからね」
やや陽気な口調で答えながら、大紋が暁の肩に手を置く。
その指先に無言のメッセージを感じた暁は、一生懸命に笑顔を作る。
「…ええ。…春馬さんにいただきました…」
「そうか。…私は暁の清潔なシャボンの香りが好きだったが…」
やや寂しげに続けた。
「…暁ももう17歳だ。大人の身嗜みも必要だからな…」
暁の髪を愛しげにくしゃりと撫でる。
暁は不意に泣きそうになり、慌てて俯いた。

大紋は察知して、明るく礼也を玄関ホールに導く。
「さあ、入ってくれ。…昼食と…晩餐も一緒に食べていけるんだろう?…昼食は和食にして貰おう。アメリカから帰りたてだから、和食が恋しいんじゃないか?
うちの料理人の手打ち蕎麦と天婦羅は絶品なんだ。ね、暁…」
「…は、はい!兄さん、ぜひ食べて行ってください…」
上擦った声で礼也を見上げる暁に、優しく肩を抱きながら歩き出す。
「それは嬉しいな。…アメリカの硬いステーキとフライドポテトに食傷していたところなんだ」
暁を真ん中に三人は中に入る。

大紋が礼也には見えないところで、暁の手を握り締める。
暁の手が一瞬震えたが、直ぐに大紋の手を握り返してきた。
そのことにほっとしながら、楽しげに続ける。
「…今夜は三人でゆっくり食事しよう。…特別なメニューを後で料理長と相談するよ…。
そうだ。良かったら露天風呂にも入って行ってくれ。…檜風呂が最高なんだ…。暁も大層気に入ってくれてね…」
暁の目元が薄紅に染まり、潤んだ黒い瞳が切な気に大紋を見上げた。
大紋は黙って暁の細い指を強く握り締めた。




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