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暁の星と月
第3章 暁の天の河
家政婦が運んできた蜂蜜入りホットワインと、フォアグラのテリーヌを乗せたソーダクラッカーを風間に勧める頃には辺りは薄闇に包まれていた。
家政婦が庭のランプに火を入れながら2人にお辞儀をして静かに立ち去る。
「軽井沢は陽が落ちるとすぐに冷えるからね。ホットワインにしたよ。アルコール分は飛んでいるから…まあいいだろう」

風間は少し驚いたような貌をし、ふっと笑った。
「何が可笑しい?」
笑いながら首を振る。
「…いえ。…縣が貴方の恋人にすんなりなった訳が少し分かりましたよ」
大紋は怜悧な眉を上げて、風間を見遣る。
「…暁が僕の恋人になるのにすんなりはいっていないがね。でも折角だ。訳を聞かせて貰おうか?」
風間はワインを一口飲みながら、鳶色の瞳に色めいた笑みを浮かべた。
「大紋先輩は優しいんですね。…嫌いな僕にも凄く親切だ。こんなところに縣はふらふら〜となっちゃったんだろうなあ」
「別に君のことは嫌いじゃないさ」
肩をすくめる。
「…縣に手を出そうとしても?」
大紋は新しい煙草に火を付け、小さく笑う。
「10歳以上年下の後輩に本気でライバル視するほど大人気なくはないさ」
「…へえ…。もし僕が本気を出して縣に迫ったら?もしかしたら略奪されるとは思いませんか?」
風間は目を眇め、その妖艶な唇を吊り上げた。
「…あんまり子供相手にこんなことは言いたくはないが…暁は僕のセックスには夢中のはずだからね。暁は一途な子だから、僕に飽きない内は他には見向きをしないだろう。残念だったね」
艶っぽい話なのにどこか物憂げな大紋に、風間は不思議な貌をする。
「…自慢しているようには見えませんね…。寧ろ何だか落ち込んでいるみたいだ」
大紋は意外そうに風間を見上げ、苦笑する。
「君は嫌になる程、色ごとに関して鋭いんだな」
…そう、暁の身体は手に入れたのに、なぜこんなにも不安なのだろうか…。
「…身体だけの関係など虚しいものだな…と考えていたのさ」
「…縣もそう思っているということですか?」
いつの間にか風間の華やかな美貌から笑みは消えていた。
大紋は淋しげに笑う。
「…いや、暁は真面目で優しい子だ。…僕を好きだと必死で思ってくれている」
…だが、大紋を一途に見つめる眼差しの先には礼也がいる。
本人は恐らく無自覚なのだろうが…。
だが、自分と礼也を重ねる暁の眼差しを確かに感じるのだ。



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