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暁の星と月
第3章 暁の天の河
天候に恵まれたので、お茶会はガーデンパーティー形式で行われた。
白いリネン、白い天幕、白い椅子、テーブルには白い花…。
白で趣味良く統一された家具や調度品の数々に囲まれ、梨央はまるで清らかなお伽話の姫君のようにそこに静かに馴染んでいた。
礼也の梨央を見つめる瞳はあくまでも優しい。
美しい少女を慈しみ、高価な宝石のように大切に尊重している気持ちが伝わって来るのだ。
梨央も礼也にはまるで慕わしい兄のように信頼感に満ちた眼差しで見つめ、微笑みかけていた。

…対照的に、光は…
「…縣さんの別荘に伺うのは2度目だわ。相変わらず素晴らしい庭園ね」
勝気そうな美しい瞳をきらきらさせながら、嫣然と笑う。
「…光さんにお褒めいただいて光栄です。…あの池も健在ですよ」
礼也はやや意地悪そうな悪戯めいた笑みを投げる。
光は形の良い眉を跳ね上げ、にやりと笑う。
「…ああ、あの池ね」
梨央が不思議そうな顔をする。
「光お姉様、お池ってなあに?」
光は梨央が可愛くて仕方がないように、その透き通るように白い艶やかな頬を撫でる。
「私が一条公爵の次男坊を突き落とした池よ」
まるでさらりと、一緒にダンスを踊りましたと言うかのように告白した光にテーブルの一同は呆気にとられた。
礼也は可笑しくて仕方ないように声を立てて笑う。
「あれは光さんが8歳の時でしたか…。ガーデンパーティーをしていたら突然、池の方から悲鳴が上がり…見ると一条公爵のご子息がずぶ濡れになって泣いておられて、大変な騒ぎになりましたね」
光は肩を竦める。
「だってあいつ、最低なんだもの。ボードゲームでずっとズルはするわ、私のドレスのスカートはめくるわ…。あんまり頭に来ちゃって、池の家鴨を見せるふりして突き落としてやったのよ」
「…お姉様ったら…!」
梨央は信じられないように目を見張る。
大紋も声を立てて笑い出した。
「これは…聞きしに勝るジャジャ馬姫だ」
暁が慌てて大紋の袖を引く。
「一条公爵夫人がそれはお冠になられて、光さんのお母様が必死で謝っておられましたね」
「池は深さが膝丈くらいしかないのよ。溺れやしないし、夏だから風邪も引かないのにね」
まるで他人ごとのように涼しい顔をする光を礼也は愉快で堪らないように笑い続けた。
…兄さんが女性と話しをして、こんなに笑うのを初めて見た…。
暁は意外なものを見るように礼也の顔を覗き見た。


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