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暁の星と月
第3章 暁の天の河
「未だに一条公爵のバカ息子は私と夜会でばったり遭遇すると飛び上がって逃げて行くのよ。肝っ玉が小さいったらありゃしない」
澄ました顔で薫り高いダージリンを飲む。
マナーブックのお手本になりそうなその優雅な仕草からは、想像できないようなお転婆ぶりだ。
普段他人と接しない梨央は、光の武勇伝に頬を紅潮させる。
「…お姉様…すごいわ…」
「一条公爵のご子息を池に突き落とした2年後に、池のカエルをご自分のナニーのお洋服のポケットに突っ込んでこれまたパーティーを大騒ぎにさせたのですから…つくづく光さんは池をご覧になると何かをせずにはいられない方なのですね」
礼也の陽気な笑い声は続く。
光は綺麗な眉を顰める。
「いやあねえ…そんなことまでよく覚えていらっしゃるわね」
「忘れようとしても忘れられませんよ。…貴族のご令嬢でそのようなやんちゃをする方は光さんくらいですからね」
礼也は軽くいなす。
「縣さんは梨央さんみたいなお淑やかで可憐なお姫様がお好きだからよ。欧州では私みたいな男勝りな女は魅力的と言われるのよ」
光は形の良い顎をつんと反らせる。
「ええ。私は梨央さんのような大和撫子が慕わしいですね」
礼也は梨央の目を愛情を込めて見つめる。
梨央は恥ずかしそうに頬を薔薇色に染めて俯いた。
「…光さんのような方を恋人にしたら毎日冷や冷やですよ。心落ち着くことがないでしょうね…」
礼也の言葉を受け、光はむっとしながら反論する。
「別に貴方に恋人になって頂くつもりはないですから。余計なお世話だわ、全く」
怒ると一層、魅力が増すような光を礼也は少しも焦らず余裕に微笑む。
「…時々、パリの夜会で光さんにお目にかかりますが、沢山の信奉者に囲まれた貴女は本当にお美しいです。同じ同胞として誇らしいほどに…。けれど、真実の愛を得られた貴女は、きっと百倍も千倍もお美しくなられるのでしょう。…貴女のお幸せを祈っておりますよ」
思いがけずに、光に対して思いやり深い言葉を受け、光ははっと胸を突かれたように押し黙る。

大紋はふと思った。
礼也は無意識だろうが、光と話している彼は実に自然で彼らしかった。
跳ねっ返りの光をいなす様子も楽し気で生き生きとしていた。
…意外な相性の良さなのかもしれないな…。

感心したまま暁を見る。
暁はそっと切な気な眼差しで、光と話す礼也を見つめていた…。



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