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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「こちらにいらして、絢子様」
雪子に手招きされて、おずおずと広間の隅からこちらに歩いてくる若い令嬢の姿が見えた。
淡い鴇色の清楚なシフォンベルベットのドレスを身につけた令嬢は、恥ずかしそうに雪子の隣に立つと俯いた。
おとなしげな品の良い美しい令嬢だ。
雪子は令嬢を大紋に紹介する。
「お兄様、こちらは私の女学校のお友達の西坊城絢子様。西坊城子爵の末のお嬢様よ」
…そして少し揶揄うような口調で続ける。
「絢子様はね、今年の秋の馬術大会でお兄様の馬場馬術をご覧になって以来、ずっとお兄様にお熱なのよ。今日もどうしてもお兄様にお会いしたいから…て、お父様におねだりして連れて来ていただいたのですって」
絢子は白い頬を真っ赤に染めて小さくなる。
「…や、やめて、恥ずかしいですわ…雪子様…」
「あら、いいじゃない。…お兄様もこんな美人に好かれたら嫌な気はなさらないはずよ。ね?お兄様?」
大紋は絢子を傷つけないように、優しく微笑みかける。
「ええ、光栄ですよ。こんなにもお美しいお嬢さんにそんな風に思っていただけて。
…絢子さん、雪子はこの通りのお転婆娘ですが、どうかこれからも仲良くしてくださいね。…よろしければいつでも我が家に遊びにいらしてください」
絢子は優しく話しかけられ、大紋の顔をうっとりと見つめたまま、声も出ない。
楚々とした世間知らずな深窓の令嬢が、この美男子で腕利き弁護士の男に恋に堕ちているのは、火を見るよりも明らかであった。
「…やれやれ…。恋の嵐が吹き荒れるのも、時間の問題かな…」
傍らで一部始終を見ていた風間は小さく呟き、下僕から受け取ったワインを飲み干す。
雪子に手招きされて、おずおずと広間の隅からこちらに歩いてくる若い令嬢の姿が見えた。
淡い鴇色の清楚なシフォンベルベットのドレスを身につけた令嬢は、恥ずかしそうに雪子の隣に立つと俯いた。
おとなしげな品の良い美しい令嬢だ。
雪子は令嬢を大紋に紹介する。
「お兄様、こちらは私の女学校のお友達の西坊城絢子様。西坊城子爵の末のお嬢様よ」
…そして少し揶揄うような口調で続ける。
「絢子様はね、今年の秋の馬術大会でお兄様の馬場馬術をご覧になって以来、ずっとお兄様にお熱なのよ。今日もどうしてもお兄様にお会いしたいから…て、お父様におねだりして連れて来ていただいたのですって」
絢子は白い頬を真っ赤に染めて小さくなる。
「…や、やめて、恥ずかしいですわ…雪子様…」
「あら、いいじゃない。…お兄様もこんな美人に好かれたら嫌な気はなさらないはずよ。ね?お兄様?」
大紋は絢子を傷つけないように、優しく微笑みかける。
「ええ、光栄ですよ。こんなにもお美しいお嬢さんにそんな風に思っていただけて。
…絢子さん、雪子はこの通りのお転婆娘ですが、どうかこれからも仲良くしてくださいね。…よろしければいつでも我が家に遊びにいらしてください」
絢子は優しく話しかけられ、大紋の顔をうっとりと見つめたまま、声も出ない。
楚々とした世間知らずな深窓の令嬢が、この美男子で腕利き弁護士の男に恋に堕ちているのは、火を見るよりも明らかであった。
「…やれやれ…。恋の嵐が吹き荒れるのも、時間の問題かな…」
傍らで一部始終を見ていた風間は小さく呟き、下僕から受け取ったワインを飲み干す。