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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
玄関ホールには、北白川伯爵家の美貌の執事、月城が静かに佇んでいた。
長身の黒い制服姿の月城は、神々しいまでに怜悧に美しく、侵し難い威厳のようなものが備わっている男だった。
「…月城さん!」
暁が嬉しそうに駆け寄ると、端麗な貌に優しい笑みを浮かべ優雅に一礼した。
「…暁様、本日は誠におめでとうございます。…こちらは梨央様よりのお祝いの花束です。梨央様が暁様のイメージのお花を温室より選ばれて、花束にされました」
…その花は見事なカサブランカだった。
純白の大きな花弁、優美な姿…そして芳醇かつ澄んだ薫り…。
温室で宝石のように咲き誇っていたであろうその希少な花束を受け取り、梨央の優しさに胸が一杯になる。
「…すごく…すごく綺麗です…。ありがとうございます!」
「梨央様は折角、暁様のお誕生日会にご招待いただいたのに伺えないことを申し訳なく思っておられます。くれぐれも暁様にお詫び申し上げるようにと申しつかってまいりました」
…数ヶ月前に、梨央が無理をして出席したとあるお茶会で、礼也に縁談を断られた気の強い令嬢に悪質な意地悪をされて以来、梨央の引きこもりが激しくなってしまったのだ。
一時期は、礼也すらなかなか会うことが叶わなかった。礼也はこの出来事に大層胸を痛めていた。
…繊細な玻璃のような気持ちの持ち主の梨央を礼也は以前にも増して大切に壊れ物を扱うように接し、益々梨央への思慕の念を強くしていた。
そんな兄を暁は切なく遠くから見つめることしかできないでいる。
「そんなこと!今日は沢山の招待客がいるのです。梨央さんがいらっしゃれないのは無理からぬことです。…僕は梨央さんのお優しいお気持ちだけで、充分嬉しいです」
月城は安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。そのお言葉を頂戴して、梨央様もどれほど喜ばれることでしょう」
そして口調を変え、楽しげに暁を見つめた。
「…暁様、カサブランカの花言葉をご存知ですか?」
「…いいえ、知りません」
「カサブランカの花言葉は高貴です。…気高く貴く美しい…。暁様に相応しい花です…」
暁は慌てて首を振る。
「とんでもありません!…高貴なんて…梨央さんならともかく、僕なんてそんな…」
月城は静かに、しかし確固たる口調で語り出す。
「いいえ。暁様は大変気高く美しいお方です。このカサブランカのように薫り高く気品に満ちていらっしゃいます」
長身の黒い制服姿の月城は、神々しいまでに怜悧に美しく、侵し難い威厳のようなものが備わっている男だった。
「…月城さん!」
暁が嬉しそうに駆け寄ると、端麗な貌に優しい笑みを浮かべ優雅に一礼した。
「…暁様、本日は誠におめでとうございます。…こちらは梨央様よりのお祝いの花束です。梨央様が暁様のイメージのお花を温室より選ばれて、花束にされました」
…その花は見事なカサブランカだった。
純白の大きな花弁、優美な姿…そして芳醇かつ澄んだ薫り…。
温室で宝石のように咲き誇っていたであろうその希少な花束を受け取り、梨央の優しさに胸が一杯になる。
「…すごく…すごく綺麗です…。ありがとうございます!」
「梨央様は折角、暁様のお誕生日会にご招待いただいたのに伺えないことを申し訳なく思っておられます。くれぐれも暁様にお詫び申し上げるようにと申しつかってまいりました」
…数ヶ月前に、梨央が無理をして出席したとあるお茶会で、礼也に縁談を断られた気の強い令嬢に悪質な意地悪をされて以来、梨央の引きこもりが激しくなってしまったのだ。
一時期は、礼也すらなかなか会うことが叶わなかった。礼也はこの出来事に大層胸を痛めていた。
…繊細な玻璃のような気持ちの持ち主の梨央を礼也は以前にも増して大切に壊れ物を扱うように接し、益々梨央への思慕の念を強くしていた。
そんな兄を暁は切なく遠くから見つめることしかできないでいる。
「そんなこと!今日は沢山の招待客がいるのです。梨央さんがいらっしゃれないのは無理からぬことです。…僕は梨央さんのお優しいお気持ちだけで、充分嬉しいです」
月城は安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。そのお言葉を頂戴して、梨央様もどれほど喜ばれることでしょう」
そして口調を変え、楽しげに暁を見つめた。
「…暁様、カサブランカの花言葉をご存知ですか?」
「…いいえ、知りません」
「カサブランカの花言葉は高貴です。…気高く貴く美しい…。暁様に相応しい花です…」
暁は慌てて首を振る。
「とんでもありません!…高貴なんて…梨央さんならともかく、僕なんてそんな…」
月城は静かに、しかし確固たる口調で語り出す。
「いいえ。暁様は大変気高く美しいお方です。このカサブランカのように薫り高く気品に満ちていらっしゃいます」