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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「…暁様、一つお願いがございます」
「何ですか?」
月城は、眼鏡越しの静謐な眼差しを暁に充て、穏やかに口を開いた。
「…私のことはこれから、月城とお呼び捨てください。…それから、敬語も不要です」
暁ははっと息を呑む。
「…そんな…出来ません。…月城さんを呼び捨てするなんて…どうして今まで通りではいけないのですか?」
暁にとって月城は初めて信頼を置くことができた他家の執事であった。
その優雅な立ち居振る舞い、言葉、行動、そして…まるで人形のように整った美しい容姿…。
全てが、人として尊敬に値する人物だったのだ。
「…暁様もご成人されました。…貴方様は縣家のご立派なご子息様。私は一介の使用人です。…立場のけじめはつけなくてはなりません」
…それは、暁が心のどこかで自分の出自に引け目を感じていることを密かに見抜いていた月城のメッセージでもあった。
…妾腹であることは気にせずに、堂々と貴族の子弟として、威厳を持って生きていってほしい…。
そんな月城の思いを、賢い暁は受け止めていた。
…しかし、一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
まるで、月城に一線を引かれたような気がしたからだ。
…初めて北白川家を訪れて、貴族の子弟達の輪に入れずに居た時、温かい手を差し伸べてくれたのは月城だった。
数少ない信頼できる古い友人のような彼を、使用人の立場として接しなくてはならないのか…と、切なく思う。
しかし、ここで拒否をしたら月城を困らせるだけだ。
彼の立場もないだろう。
暁は淋しげに微笑み、頷いた。
「…分かったよ。月城…そうしよう…」
月城は暁のその微笑みを見て、やや痛ましげな表情をしたが、それをすぐに押し殺し、丁寧にお辞儀する。
「ありがとうございます。…暁様、私は北白川家の使用人ではございますが、貴方様のお幸せをいつもお祈りしております。それだけは忘れないでいてください…」
真摯な澄んだ瞳が暁を捕らえる。
暁は静かに笑った。
「…ありがとう、月城。…忘れないよ…」
折り目正しく一礼し屋敷を辞した月城を、暁は玄関に立ち、いつまでも見送っていた。
…そんな暁の背後から聞きなれた声が響いた。
「…僕以外の男をそんな風に恋しげに見送るのは、些か妬けるな…」
振り返ると、大紋が優雅な足取りで暁に向って歩いて来ていた。
暁は、あっと言う間に大紋の熱く強い抱擁に包まれる。
「何ですか?」
月城は、眼鏡越しの静謐な眼差しを暁に充て、穏やかに口を開いた。
「…私のことはこれから、月城とお呼び捨てください。…それから、敬語も不要です」
暁ははっと息を呑む。
「…そんな…出来ません。…月城さんを呼び捨てするなんて…どうして今まで通りではいけないのですか?」
暁にとって月城は初めて信頼を置くことができた他家の執事であった。
その優雅な立ち居振る舞い、言葉、行動、そして…まるで人形のように整った美しい容姿…。
全てが、人として尊敬に値する人物だったのだ。
「…暁様もご成人されました。…貴方様は縣家のご立派なご子息様。私は一介の使用人です。…立場のけじめはつけなくてはなりません」
…それは、暁が心のどこかで自分の出自に引け目を感じていることを密かに見抜いていた月城のメッセージでもあった。
…妾腹であることは気にせずに、堂々と貴族の子弟として、威厳を持って生きていってほしい…。
そんな月城の思いを、賢い暁は受け止めていた。
…しかし、一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
まるで、月城に一線を引かれたような気がしたからだ。
…初めて北白川家を訪れて、貴族の子弟達の輪に入れずに居た時、温かい手を差し伸べてくれたのは月城だった。
数少ない信頼できる古い友人のような彼を、使用人の立場として接しなくてはならないのか…と、切なく思う。
しかし、ここで拒否をしたら月城を困らせるだけだ。
彼の立場もないだろう。
暁は淋しげに微笑み、頷いた。
「…分かったよ。月城…そうしよう…」
月城は暁のその微笑みを見て、やや痛ましげな表情をしたが、それをすぐに押し殺し、丁寧にお辞儀する。
「ありがとうございます。…暁様、私は北白川家の使用人ではございますが、貴方様のお幸せをいつもお祈りしております。それだけは忘れないでいてください…」
真摯な澄んだ瞳が暁を捕らえる。
暁は静かに笑った。
「…ありがとう、月城。…忘れないよ…」
折り目正しく一礼し屋敷を辞した月城を、暁は玄関に立ち、いつまでも見送っていた。
…そんな暁の背後から聞きなれた声が響いた。
「…僕以外の男をそんな風に恋しげに見送るのは、些か妬けるな…」
振り返ると、大紋が優雅な足取りで暁に向って歩いて来ていた。
暁は、あっと言う間に大紋の熱く強い抱擁に包まれる。