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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「…逢いたかったよ…暁…」
暁をきつく抱きしめ、離さない大紋を暁は焦ったように囁く。
「…春馬さん、人が来ます…」
「大丈夫だよ。来客は皆、広間だし、使用人も彼らの世話に忙しい。…ここには誰も来ないさ」
強く抱きしめた腕をようやく緩め、暁の小さな貌を撫でる。
「今日は特別綺麗だよ。…皆に自慢したかった。こんなにも美しい暁は僕の恋人だ…てね」
暁は恥らいから下を向く。
大紋は暁の手の中の見事なカサブランカの花束に気づく。
「…これは…?」
「今、北白川伯爵家の月城さんが届けてくれたのです。梨央様から…と」
大紋は豪奢な花束に目を輝かす。
「とても素晴らしい美しい花だね…。君にぴったりだ」
暁は頬を薔薇色に染め、微笑む。
「…このコサージュも、梨央さんが?」
暁の胸元に眼をやり尋ねる。
「これは、月城さんが僕にと贈ってくれたのです。…彼が育てた胡蝶蘭だそうです」
「…ほう…」
大紋はその見事な花に感心したが…この世の人とは思えぬほどの美貌の執事がわざわざ暁にコサージュを作り、贈ったのかと思うと子供じみた妬心が湧いた。
「…随分粋なことをする執事だな…」
「…ええ…。月城さんはとても優しい人です…でも…」
ふと憂いを帯びた瞳になり、首を振る。
「…いえ、なんでもありません…」
大紋は不意に訳の分からぬ焦燥感に駆られ、暁の顎を掴むと、濃厚なくちづけを与えた。
「…んっ…だめ…ひとが…きたら…」
暁が抗うのを逞しい腕で抑えてしまう。
「…来ても構わないよ…堂々と言いたい…君は僕のものだ…と…」
尚も唇を貪り続ける大紋に、暁はくちづけの合間に必死で囁く。
「…だめ…春馬さんのお立場に…傷が付きます…」
…僕はいいけれど…と付け加えた暁の潤んだ瞳を見て、大紋は堪らなくなる。
「…君はどこまで可愛いんだ…」
暁を砕けそうになるまで強く抱きすくめる。
カサブランカの高貴な薫りが胸一杯に広がる。
暫くして大紋は漸く暁を解放し、手を握り締める。
「明日、武蔵野の家に来てくれないか…」
「…明日は馬術部の練習があるから、伺うのは遅くなりますよ…」
「構わない…。君と少しでも愛し合いたいんだ…」
大紋の唇を白く細い指先が撫でる。
「…僕もです…」
「…暁!」
もう一度唇を奪おうとした時、広間の扉が開き礼也が陽気な声をあげながら近づく。
「ここにいたのか…探したよ、暁。…ああ、春馬も…」

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