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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
暁が雪子と二曲目のワルツを踊っていると、ふと大紋が恰幅の良い初老の紳士と何か話した後に、傍に寄り添っていた若い令嬢の手を取り、フロアの中へ進み出るのが目に入った。
…さっき春馬さんとお話ししていたお嬢さんだ…。
暁が気にしているのが分かったのか、腕の中の雪子がそちらを振り返る。
「…ああ、絢子様ね。フフ…念願通り、お兄様と踊れたのね。良かったわ」
「…絢子様…どちらのお嬢様ですか?」
「西坊城絢子様。私の女学校の同級生で、前国務大臣の西坊城子爵様のお嬢様よ。…絢子様ったら、この間の馬術大会で馬場馬術をされるお兄様をご覧になってすっかり恋に堕ちてしまわれたの」
「…そう…なんですか…」
大紋が再び馬術大会に参加するようになったのは去年からだ。
…障害馬術はもう自信がないが、馬場馬術ならチャレンジしてみようかなと思ってね。
…そうしたら、暁に会える機会が増えるし…ね…。
…そう言いながら、暁の唇を優しく奪った大紋を思い出し、胸が苦しくなる。
「絢子様はとても大人しい方なんだけど、お兄様には一目惚れされて…今日もお父様の子爵様にお願いして連れて来ていただいたみたい。…今もお父様が拝み倒して、お兄様と踊られたようね。絢子様は末のお嬢様だから、お父様に溺愛されていらっしゃるらしいわ…あら、でもこうして見ると、なかなかお似合いだわ…」
暁は、絢子の手を取り優雅に踊る大紋を見る。
小柄な絢子は大紋の肩ほどまでの背丈しかない。
しかし、ほっそりとした身体を鴇色の美しいドレスに身を包み、今にも泣き出しそうな緊張した表情で大紋を見上げ、エスコートされる姿はとても清楚で可愛らしかった。
対する大紋は、女性に好意を向けられることは慣れているので、如才ない余裕に満ちた微笑みで絢子を見下ろし、まだたどたどしいステップの絢子を優しくリードして踊っていた。
美男美女のカップルに来賓たちも目を奪われているようだ。
暁のすぐ隣を、大紋達が滑るように踊り、通り抜けてゆく。
暁の眼差しを大紋はすかさず捕らえ、その理知的な目元で甘く微笑んだ。
暁は、ぎこちなくしか笑い返せなかった。
「…お兄様もそろそろ年貢を納めて下さればいいのに…」
巧みにターンしながら、雪子が肩を竦める。
「山のようにお見合い話があるのに、全く興味を持たれないのよ?…どうお思い?暁様」
暁はどきりとしながら曖昧に笑う。
…さっき春馬さんとお話ししていたお嬢さんだ…。
暁が気にしているのが分かったのか、腕の中の雪子がそちらを振り返る。
「…ああ、絢子様ね。フフ…念願通り、お兄様と踊れたのね。良かったわ」
「…絢子様…どちらのお嬢様ですか?」
「西坊城絢子様。私の女学校の同級生で、前国務大臣の西坊城子爵様のお嬢様よ。…絢子様ったら、この間の馬術大会で馬場馬術をされるお兄様をご覧になってすっかり恋に堕ちてしまわれたの」
「…そう…なんですか…」
大紋が再び馬術大会に参加するようになったのは去年からだ。
…障害馬術はもう自信がないが、馬場馬術ならチャレンジしてみようかなと思ってね。
…そうしたら、暁に会える機会が増えるし…ね…。
…そう言いながら、暁の唇を優しく奪った大紋を思い出し、胸が苦しくなる。
「絢子様はとても大人しい方なんだけど、お兄様には一目惚れされて…今日もお父様の子爵様にお願いして連れて来ていただいたみたい。…今もお父様が拝み倒して、お兄様と踊られたようね。絢子様は末のお嬢様だから、お父様に溺愛されていらっしゃるらしいわ…あら、でもこうして見ると、なかなかお似合いだわ…」
暁は、絢子の手を取り優雅に踊る大紋を見る。
小柄な絢子は大紋の肩ほどまでの背丈しかない。
しかし、ほっそりとした身体を鴇色の美しいドレスに身を包み、今にも泣き出しそうな緊張した表情で大紋を見上げ、エスコートされる姿はとても清楚で可愛らしかった。
対する大紋は、女性に好意を向けられることは慣れているので、如才ない余裕に満ちた微笑みで絢子を見下ろし、まだたどたどしいステップの絢子を優しくリードして踊っていた。
美男美女のカップルに来賓たちも目を奪われているようだ。
暁のすぐ隣を、大紋達が滑るように踊り、通り抜けてゆく。
暁の眼差しを大紋はすかさず捕らえ、その理知的な目元で甘く微笑んだ。
暁は、ぎこちなくしか笑い返せなかった。
「…お兄様もそろそろ年貢を納めて下さればいいのに…」
巧みにターンしながら、雪子が肩を竦める。
「山のようにお見合い話があるのに、全く興味を持たれないのよ?…どうお思い?暁様」
暁はどきりとしながら曖昧に笑う。