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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
…大紋の武蔵野の家に着いた頃には既に時刻は夜半近くになっていた。
タクシーの運転手に少し多めの紙幣を渡し、暁は車を降りる。
…家の車は使わずにタクシーを使う。
礼也と執事の生田には、馬術部の練習で遅くなるので、部室に泊まり込むと言って家を出て来た。

「…熱心だね、風邪を引かないように気をつけなさい。お前は喉が弱いからすぐに熱を出すからね」
朝食の席で優しく微笑みながら、声をかけてくれた礼也…。
「厩舎はお寒うございましょう。もう少し暖かいコートをお召しになりませんか?」
と心配してきた生田の顔が思い浮かんだ。
…嘘を吐いている自分に重い罪悪感がよぎる。

頭を一振りして、降り積もる枯葉を踏みしめながら自分達の隠れ家を見上げる。
鬱蒼と林が茂る武蔵野…。
昼尚暗い木立…。
その林の奥に隠れるように佇む純日本家屋…。
武蔵野に住まうとある文豪が、手狭になった家を売りに出していると小耳に挟んだ大紋が現地に赴き、内覧したその日の内に即決で購入した家だった。

「…暁と気兼ねしないで愛し合える場所が欲しいんだ…人目を気にせず…二人きりで…」
躊躇する暁の貌を愛おしげに見つめ、そのあとは熱いくちづけを与えられ、何も言うことが出来なくなった…。

大紋の愛撫を思い出し、熱くなった頬を冷ますように周囲を見渡す。
こじんまりとした家だが、趣味の良い大紋が庭師を入れ、手入れは怠らない。
大紋は、元々この家に仕えていた初老の女中をそのまま雇い入れた。
若い頃には某政治家の別宅の女中頭をしていたと言う糸という女は口が固く、余計な詮索やお喋りをしない弁えた人物だった。
綺麗好きで家の中も常に整えられていて、料理の腕も素晴らしかった。
それを気に入った大紋が破格の給金で雇ったのだ。
通いで雇っているので、大紋や暁が来ると心得ているかのようにいつの間にか姿を消す。
…二人の関係に気づいているのだろうが、それをおくびにも出さずに、淡々と接して来るのが気楽だった。

…先に大紋が到着しているらしい。
玄関に暖かい灯りが灯っているのを見上げ、暁は表情を和らげる。
暁が玄関の引き戸に手を掛けた時、同時にそれが開けられた。

「…お帰り、暁…寒かっただろう…」
次の瞬間には優しく熱い眼差しの大紋に腕を引かれ、男の上質なカシミアのセーターの胸に抱き込まれていた。






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