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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「…ただいま…春馬さん…」
そう答えて
背の高い男を見上げると、まるでずっとこの家に二人で暮らしているかのような幸せな錯覚に陥ることが出来た。
大紋は何も言わずに、暁の小さな繊細な貌を引き寄せると、濃厚なくちづけを与える。
いつもなら、暁もそのまま濃密なくちづけに酔いしれ、舌を絡めるのだが…今夜はどうしてもその流れに乗れず、執拗に口内を弄り続ける男の腕をやや邪険に押しやった。
暁がくちづけを拒むことは珍しい。
大紋は眉を顰めて、腕の中の暁を覗きこんだ。
「どうしたの?具合でも悪い?」
優しい言葉に頑な心が綻びそうになる。
だが、暁は俯いたまま首を振る。
大人な大紋は、決して急かしたり苛立ったりしない。
甘やかすように暁の髪を撫で、抱きしめる。
「…どうしてご機嫌斜めなのかな?この麗しの恋人は…」
歌うように宥める男の胸に黙って頬を当てる。
「…言ってごらん…何があったの、暁…」
優しく背中を撫でられて、胸に詰まっていた蟠りは氷のように少しずつ溶け出してゆく…。
「…つまらないことです…春馬さんにとっては…」
「暁が言うことにつまらないことなど何もないよ。聞きたいな、君が考えていること全てを」
おずおずと上げた貌をすかさず温かく大きな手に包み込まれる。
「…昨日の…」
「うん?」
「…春馬さんがご一緒に踊られていたお嬢さん…」
一瞬、暁が何を言い出したのか分からないといった貌をしたが、ああ…と合点をいかせる。
「西坊城子爵のお嬢さんね。…知り合いなの?」
…変なところに鈍い人だ。
暁は仏頂面のまま首を振る。
「…違いますよ」
「へえ…じゃあ…彼女がどうしたの?」
…本当に鈍い人だ…!
カチンときた暁は大紋の腕から抜け出し、そっぽを向く。
「…暁?どうした…」
困ったような声を上げる大紋に、一方的に捲くし立てる。
「何をあんなに楽しそうに話していらしたんですか?二曲も踊って差し上げて…!帰りはご丁寧に車寄せまでお見送りされて…!にこにこ手なんか振っちゃって…‼︎」
…全部…全部見ていたんだから!
初めて見る暁の凄い剣幕に、大紋は呆気に取られる。
ややもして、背後から疑い半分な声が飛ぶ。
「…あの…自惚れかも知れないけれど…もしかして嫉妬してくれているの?」
「…嫉妬でなかったら何なんですか…」
ぽつりと答えた暁の身体が、背中から驚くほど強い力で抱き締められた。
そう答えて
背の高い男を見上げると、まるでずっとこの家に二人で暮らしているかのような幸せな錯覚に陥ることが出来た。
大紋は何も言わずに、暁の小さな繊細な貌を引き寄せると、濃厚なくちづけを与える。
いつもなら、暁もそのまま濃密なくちづけに酔いしれ、舌を絡めるのだが…今夜はどうしてもその流れに乗れず、執拗に口内を弄り続ける男の腕をやや邪険に押しやった。
暁がくちづけを拒むことは珍しい。
大紋は眉を顰めて、腕の中の暁を覗きこんだ。
「どうしたの?具合でも悪い?」
優しい言葉に頑な心が綻びそうになる。
だが、暁は俯いたまま首を振る。
大人な大紋は、決して急かしたり苛立ったりしない。
甘やかすように暁の髪を撫で、抱きしめる。
「…どうしてご機嫌斜めなのかな?この麗しの恋人は…」
歌うように宥める男の胸に黙って頬を当てる。
「…言ってごらん…何があったの、暁…」
優しく背中を撫でられて、胸に詰まっていた蟠りは氷のように少しずつ溶け出してゆく…。
「…つまらないことです…春馬さんにとっては…」
「暁が言うことにつまらないことなど何もないよ。聞きたいな、君が考えていること全てを」
おずおずと上げた貌をすかさず温かく大きな手に包み込まれる。
「…昨日の…」
「うん?」
「…春馬さんがご一緒に踊られていたお嬢さん…」
一瞬、暁が何を言い出したのか分からないといった貌をしたが、ああ…と合点をいかせる。
「西坊城子爵のお嬢さんね。…知り合いなの?」
…変なところに鈍い人だ。
暁は仏頂面のまま首を振る。
「…違いますよ」
「へえ…じゃあ…彼女がどうしたの?」
…本当に鈍い人だ…!
カチンときた暁は大紋の腕から抜け出し、そっぽを向く。
「…暁?どうした…」
困ったような声を上げる大紋に、一方的に捲くし立てる。
「何をあんなに楽しそうに話していらしたんですか?二曲も踊って差し上げて…!帰りはご丁寧に車寄せまでお見送りされて…!にこにこ手なんか振っちゃって…‼︎」
…全部…全部見ていたんだから!
初めて見る暁の凄い剣幕に、大紋は呆気に取られる。
ややもして、背後から疑い半分な声が飛ぶ。
「…あの…自惚れかも知れないけれど…もしかして嫉妬してくれているの?」
「…嫉妬でなかったら何なんですか…」
ぽつりと答えた暁の身体が、背中から驚くほど強い力で抱き締められた。