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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
大紋は眼を見張る。
初老の前国務大臣は、困ったような切ないような顔をしながら続ける。
「…絢子は君に出逢ってから、一日中溜息を吐いては君のことばかり考えている。食事もろくに取らないほどだ。妻も乳母もおろおろしてしまってなあ。…なんとかしてくれとせっつかれた。今日の夜会に連れていってやると言ったら泣き出して喜んでね。…君は独身だね?…絢子のような娘はどう思うかね?」
大紋は困ったことになったな…と思った。
「…はい。…しかしながら、西坊城子爵。私は爵位もない平民です。子爵令嬢の絢子さんとは釣り合わない身分です」
身分違いを強調してやんわり断わろうとした。
子爵は言下に首を振る。
「今更、貴族だ平民だという時代ではあるまい。貴族でも箸にも棒にもかからん屑もおる。君は平民だが、オックスフォードに留学経験もある立派な弁護士だ。聞けば実に有能だそうじゃないか。…実は君の父上は私の一高時代の同窓でね。知らない仲ではない。
…絢子の姉二人は其々、伯爵家や侯爵家に嫁がせたが…やはりかなり気苦労しているようなのだ。…我が家はそこまで格式は上ではないからな。
…その様子を見て、絢子の結婚は爵位はなくとも、知的で実のある夫が相応しいと思っていたのだ。君の家は代々御典医を務めた家柄だ。…全く不足はないのだよ。
…もし、君が絢子を憎からず思っているのなら、縁談を受けて貰えないだろうか」

娘を思う親心に感銘は受けたが、大紋は決意を固めると、柔らかにしかし毅然と口を開いた。
「…ありがとうございます。私をそこまで見込んでくださった西坊城子爵には、心より感謝申し上げます。
…しかしながら、実は私には愛する人がいるのです」
子爵が驚きに眉を上げた。
「…ある事情があり、一緒になることは出来ません。しかし、私はその人と一生を共にしたいと考えております」
「…そうなのか…」
子爵は肩を落とす。
「…はい。…ですので、絢子さんだけでなく、他のどなたとも結婚することはできないのです。申し訳ありません」
大紋は毅然と頭を下げる。
そして、この娘思いの優しい父親に穏やかに笑いかけた。
「…絢子さんは、お美しく可愛らしい方です。必ずや素晴らしいお相手が見つかることでしょう。
…絢子さんのお幸せを心よりお祈りしております」
子爵はややもして呟いた。
「…参ったな。…私まで君に惚れてしまいそうになったよ」

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