この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
…暁の誕生日会がお開きになり、大紋は車寄せでメルセデスに乗り込む西坊城子爵と絢子を見送った。
子爵から縁談話を聞いた後で、なんとはなしに送らないと不実なような気がしたからだ。
絢子は、父親からそれとなく大紋の胸の内を聞いたのだろう…ひどく哀しげな眼差しをして、車の中から大紋を見上げた。
大紋の胸は微かに痛んだ。
絢子は渾身の勇気を振り絞ったかのような、小さな声で縋るように尋ねた。
「…もう、私とお目にかかってはいただけないのですね…」
大紋は絢子の白い手を取り、敬意と労わりを表して恭しくくちづけた。
そして穏やかに…しかしはっきりと伝えたのだった。
「…絢子さん。貴女は素晴らしいレディです。
どうか、私のことはお忘れになり、良きお相手をお探しください。貴女なら必ず、素敵なご伴侶に巡り会えるはずです…。貴女のお幸せを心よりお祈り申し上げます」
「…大紋様…私は…」
絢子は必死で何か言いかけたが、西坊城子爵がそれを遮り、運転手に車を出すように声をかけた。
親子を乗せたメルセデスはそのまま滑らかに進み、やがて目の前から遠ざかっていった。
大紋は絢子の一途で純粋な眼差しを思いだし、切なくなったが、自分の言動に些かの後悔も持たなかった。
…どんなに誰かを傷つけてしまっても、自分には尊ぶべきひとがいるからだ。
…腕の中の愛しく美しい恋人に声をかける。
「…すまないが、ワルツの続きはまた今度にしていいかな。…早く暁を抱きたい…」
暁はゆっくりと大紋を見上げ、夜の花が開くかのように密かに微笑った。
子爵から縁談話を聞いた後で、なんとはなしに送らないと不実なような気がしたからだ。
絢子は、父親からそれとなく大紋の胸の内を聞いたのだろう…ひどく哀しげな眼差しをして、車の中から大紋を見上げた。
大紋の胸は微かに痛んだ。
絢子は渾身の勇気を振り絞ったかのような、小さな声で縋るように尋ねた。
「…もう、私とお目にかかってはいただけないのですね…」
大紋は絢子の白い手を取り、敬意と労わりを表して恭しくくちづけた。
そして穏やかに…しかしはっきりと伝えたのだった。
「…絢子さん。貴女は素晴らしいレディです。
どうか、私のことはお忘れになり、良きお相手をお探しください。貴女なら必ず、素敵なご伴侶に巡り会えるはずです…。貴女のお幸せを心よりお祈り申し上げます」
「…大紋様…私は…」
絢子は必死で何か言いかけたが、西坊城子爵がそれを遮り、運転手に車を出すように声をかけた。
親子を乗せたメルセデスはそのまま滑らかに進み、やがて目の前から遠ざかっていった。
大紋は絢子の一途で純粋な眼差しを思いだし、切なくなったが、自分の言動に些かの後悔も持たなかった。
…どんなに誰かを傷つけてしまっても、自分には尊ぶべきひとがいるからだ。
…腕の中の愛しく美しい恋人に声をかける。
「…すまないが、ワルツの続きはまた今度にしていいかな。…早く暁を抱きたい…」
暁はゆっくりと大紋を見上げ、夜の花が開くかのように密かに微笑った。