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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「よかった。…最近、忙しくてなかなか会えなかったから…寂しかったよ…」
小さく囁きながら、暁の細い指先を痛いほど握りしめる。
「…僕もです…」
おずおずと手を握り返してくる暁が愛おしい。
「雪子もたまにはいいことをするな…」
冗談めいた大紋の言葉に、思わずくすりと笑う。
大紋がふと、視線を上げる。
そしてにやりと笑って見せた。
「…噂の主がようやくご登場だ」
暁が視線の方向を見ると、観客で溢れるロビーを真っ直ぐに進んで来る雪子の姿があった。
肩を大胆に出した細いストラップの黒いイブニングドレスに、白いミンクのショール、華やかにカールさせた髪には煌めくエメラルドの髪飾りが飾られていた。
大紋に良く似た知的で切れ長の美しい瞳は二人を見つけるときらきらと輝いた。
周囲の紳士達が一斉に注目する。
雪子は社交界でも滅多にいないほどの華やかな美人だ。
手を上げて優雅に近づく雪子に、兄らしく嗜めるように声をかける。
「…急に呼び出しておいて、遅刻とはいい度胸だな。…ちょっと肌を出しすぎじゃないか?」
大紋も妹には過保護のようだ。
微笑ましくてつい笑ってしまう。
「うるさいお兄様ね。…イブニングですもの。構わないわ。暁様、お待たせしてごめんなさい」
暁は恭しく雪子のレースの手袋に包まれた手を取り、軽く唇をつける。
「ご機嫌よう、雪子さん。今日はお誘い下さってありがとうございます」
雪子は嬉しそうに暁を見つめる。
「私こそ来ていただけて嬉しいわ。第九を暁様と聴けるなんて幸せ!」
屈託なくはしゃぐ雪子に揶揄うように苦笑する。
「おいおい、僕はお前が暁くんを誘うためのだしに使われたのか?」
雪子は暁の腕に縋り、にこにこしながら首を振る。
「もちろん、違うわ。…あ、いらしたわ!…こちらよ!」
雪子がロビーの入り口付近に眼をやり、誰かを見つけたのか、手を振った。
大紋は怪訝な顔をして、そちらの方向を見る。
人混みの中、ゆっくりこちらに近づいてくる一人の振り袖姿の令嬢の姿を見て、思わず眼を見張る。
「…雪子…どういうことだ…?」
雪子は令嬢に手招きしながら密やかに告げる。
「絢子様もお誘いしたの。…ねえ、暁様。お兄様ったら酷いのよ。件の絢子様からのご縁談を素っ気なくお断りになってしまわれたの。お陰で絢子様はすっかり意気消沈してしまわれて…お気の毒すぎたから今日思い切ってお誘いしたの」
小さく囁きながら、暁の細い指先を痛いほど握りしめる。
「…僕もです…」
おずおずと手を握り返してくる暁が愛おしい。
「雪子もたまにはいいことをするな…」
冗談めいた大紋の言葉に、思わずくすりと笑う。
大紋がふと、視線を上げる。
そしてにやりと笑って見せた。
「…噂の主がようやくご登場だ」
暁が視線の方向を見ると、観客で溢れるロビーを真っ直ぐに進んで来る雪子の姿があった。
肩を大胆に出した細いストラップの黒いイブニングドレスに、白いミンクのショール、華やかにカールさせた髪には煌めくエメラルドの髪飾りが飾られていた。
大紋に良く似た知的で切れ長の美しい瞳は二人を見つけるときらきらと輝いた。
周囲の紳士達が一斉に注目する。
雪子は社交界でも滅多にいないほどの華やかな美人だ。
手を上げて優雅に近づく雪子に、兄らしく嗜めるように声をかける。
「…急に呼び出しておいて、遅刻とはいい度胸だな。…ちょっと肌を出しすぎじゃないか?」
大紋も妹には過保護のようだ。
微笑ましくてつい笑ってしまう。
「うるさいお兄様ね。…イブニングですもの。構わないわ。暁様、お待たせしてごめんなさい」
暁は恭しく雪子のレースの手袋に包まれた手を取り、軽く唇をつける。
「ご機嫌よう、雪子さん。今日はお誘い下さってありがとうございます」
雪子は嬉しそうに暁を見つめる。
「私こそ来ていただけて嬉しいわ。第九を暁様と聴けるなんて幸せ!」
屈託なくはしゃぐ雪子に揶揄うように苦笑する。
「おいおい、僕はお前が暁くんを誘うためのだしに使われたのか?」
雪子は暁の腕に縋り、にこにこしながら首を振る。
「もちろん、違うわ。…あ、いらしたわ!…こちらよ!」
雪子がロビーの入り口付近に眼をやり、誰かを見つけたのか、手を振った。
大紋は怪訝な顔をして、そちらの方向を見る。
人混みの中、ゆっくりこちらに近づいてくる一人の振り袖姿の令嬢の姿を見て、思わず眼を見張る。
「…雪子…どういうことだ…?」
雪子は令嬢に手招きしながら密やかに告げる。
「絢子様もお誘いしたの。…ねえ、暁様。お兄様ったら酷いのよ。件の絢子様からのご縁談を素っ気なくお断りになってしまわれたの。お陰で絢子様はすっかり意気消沈してしまわれて…お気の毒すぎたから今日思い切ってお誘いしたの」