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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
暁が温度のない小さな声で尋ねる。
「…縁談…?」
「ええ。この間の暁様のお誕生日会で、絢子様のお父様の西坊城子爵がお兄様に、是非絢子様とお見合いしていだきたいとお願いされたの。絢子様はお兄様にずっと恋していらして、それを見兼ねたお父様が取り持とうとされたのね。…なのにお兄様は、すぐ様断ってしまわれたのよ。お可哀想に…絢子様はそれ以来ずっとお屋敷に篭ってしまわれて…。絢子様のお母様から、何とか元気付けて貰えないかとお電話があったの。…それで今夜お誘いした訳。音楽会のチケット、丁度4枚あって良かったわ」
無邪気に笑う雪子に声を潜めて詰問する。
「なぜ事前に言わない?僕は絢子さんとの縁談をお断りしたんだぞ。…その彼女を…」
「あら、正直に言ったらお兄様は来られないでしょ?」
「当たり前だ…!」
「いいじゃない。今日は単なる知人として音楽会をご一緒するだけ。…絢子様、お誘いしたら涙を流して喜んでらしたのよ?…少しは優しくして差し上げて」
「…雪子…あのな…」
大紋の言葉を雪子は遮る。
「あ、いらしたわ。お兄様、怖いお顔はなさらないでね?
…絢子様、こちらよ。迷われなかったかしら?」
雪子が明るく声をかける。

絢子は朱色の綸子縮緬の友禅の振り袖を着て、髪を清楚に結い上げ、耳元に白いマーガレットを飾っていた。
緊張してなかなか顔を上げられない絢子に、雪子が和ませるように暁を紹介する。
「絢子様、こちらは縣暁様。…この間のお誕生日会でお会いされているわよね?暁様、こちらは西坊城絢子様。私の女学校時代の同級生なの」
暁は大紋の視線を感じながら、柔かに手を差し伸べ、その小さな白い手を軽く握る。
「ご機嫌よう、絢子さん。先日はお越し頂いてありがとうございました」
絢子はおずおずと顔を上げ、暁の美貌に一瞬見惚れる。
「こちらこそ…不意にお邪魔いたしまして、申し訳ありませんでした。…本日も…厚かましく伺いまして…」
謙虚に挨拶する絢子を暁は優しく見つめる。
「とんでもありません。私も雪子さんにお誘いいただいたのです。お会い出来て光栄です」
絢子はほっとしたように頭を下げた。
「お兄様、絢子様にご挨拶を…」
大紋は観念したように絢子に穏やかに微笑み、手を差し伸べ、軽く握手する。
「今晩は、絢子さん。またお目にかかれて光栄です」
絢子は感極まり、言葉に詰まる。
「…春馬様…私…」

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