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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
大紋は優しく宥めるように語りかける。
「せっかくこうしていらしたのです。今夜はご一緒に第九を楽しみましょう。…もうすぐクリスマスですしね」
絢子の白い頬が薔薇色に上気する。
「…はい…!春馬様…」
感激の余り涙ぐむ絢子はひどく可憐で可愛らしかった。
切ない思いで絢子を見つめる暁にさり気なく、大紋が近づく。
そして暁の腕を取り、少し離れたところに連れ出す。
「…暁、誤解しないでくれ」
「…誤解って何ですか?」
冷めた口調で返す暁の肩を掴む。
「僕は彼女とは何もない」
「…縁談…」
「え?」
暁の澄み切った美しい瞳がじっと大紋を捉える。
「…縁談があったのですね。絢子さんと。…どうして言って下さらなかったのですか?」
思わず大紋は言い淀む。
「…それは…」
…君を傷つけたくなかったからだ…
そう答えようとした時に、背後から雪子の声がかかる。
「お兄様!お二人で何をやってらっしゃるの?もう開演ベルが鳴るわ」
「…ああ、分かった。今行くよ」
暁の手をそっと握りしめる。
「…とにかく、今夜話そう。いいね」
暁は何かを言いかけたが、すぐに黙って頷いた。
「早くいらして、お兄様!暁様も!」
雪子が陽気な笑顔で手招きする。
二人が戻ると、丁度開演ベルが鳴り響いた。
「さあ、エスコートして。お兄様は絢子様を。…暁様は私を…。よろしいかしら?」
大紋が答える前に、暁が静かに頷いた。
「…もちろんです。さあ、雪子さん」
優雅な仕草で腕を差し出す暁に、雪子は嬉しそうに腕を絡ませる。
大紋もそれを見て覚悟を決めたかのように、大人の余裕に満ちた笑みを浮かべ、絢子に腕を差し出す。
「…ではまいりましょう。どうぞ…絢子さん」
絢子は感激したように、おずおずと震える手を大紋の腕に伸ばす。
小柄で華奢な絢子が、大柄な大紋に寄り添うように腕を組み歩く様子は良く似合う。
ロビーに残っていた人々はこの美しいカップルに眼を細める。
…本当に、良くお似合いだ…。
暁の胸は切なく痛んだ。
…淑やかで美しい子爵令嬢と資産家で美男子の敏腕弁護士…。
…絵に描いたような理想的なカップルだ…。
この姿が、本来大紋のあるべき姿なのではないかとも思える。
…そんな考えがすぐに浮かぶ自分を哀しく思う。
「まいりましょう、暁様」
雪子に腕を引かれ暁は穏やかに微笑み、ホールへとゆっくり足を踏み出した。
「せっかくこうしていらしたのです。今夜はご一緒に第九を楽しみましょう。…もうすぐクリスマスですしね」
絢子の白い頬が薔薇色に上気する。
「…はい…!春馬様…」
感激の余り涙ぐむ絢子はひどく可憐で可愛らしかった。
切ない思いで絢子を見つめる暁にさり気なく、大紋が近づく。
そして暁の腕を取り、少し離れたところに連れ出す。
「…暁、誤解しないでくれ」
「…誤解って何ですか?」
冷めた口調で返す暁の肩を掴む。
「僕は彼女とは何もない」
「…縁談…」
「え?」
暁の澄み切った美しい瞳がじっと大紋を捉える。
「…縁談があったのですね。絢子さんと。…どうして言って下さらなかったのですか?」
思わず大紋は言い淀む。
「…それは…」
…君を傷つけたくなかったからだ…
そう答えようとした時に、背後から雪子の声がかかる。
「お兄様!お二人で何をやってらっしゃるの?もう開演ベルが鳴るわ」
「…ああ、分かった。今行くよ」
暁の手をそっと握りしめる。
「…とにかく、今夜話そう。いいね」
暁は何かを言いかけたが、すぐに黙って頷いた。
「早くいらして、お兄様!暁様も!」
雪子が陽気な笑顔で手招きする。
二人が戻ると、丁度開演ベルが鳴り響いた。
「さあ、エスコートして。お兄様は絢子様を。…暁様は私を…。よろしいかしら?」
大紋が答える前に、暁が静かに頷いた。
「…もちろんです。さあ、雪子さん」
優雅な仕草で腕を差し出す暁に、雪子は嬉しそうに腕を絡ませる。
大紋もそれを見て覚悟を決めたかのように、大人の余裕に満ちた笑みを浮かべ、絢子に腕を差し出す。
「…ではまいりましょう。どうぞ…絢子さん」
絢子は感激したように、おずおずと震える手を大紋の腕に伸ばす。
小柄で華奢な絢子が、大柄な大紋に寄り添うように腕を組み歩く様子は良く似合う。
ロビーに残っていた人々はこの美しいカップルに眼を細める。
…本当に、良くお似合いだ…。
暁の胸は切なく痛んだ。
…淑やかで美しい子爵令嬢と資産家で美男子の敏腕弁護士…。
…絵に描いたような理想的なカップルだ…。
この姿が、本来大紋のあるべき姿なのではないかとも思える。
…そんな考えがすぐに浮かぶ自分を哀しく思う。
「まいりましょう、暁様」
雪子に腕を引かれ暁は穏やかに微笑み、ホールへとゆっくり足を踏み出した。