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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
第九の演奏会は厳かに、しかし高揚感を持って終了した。
クリスマス間近ということで拍手喝采も鳴り止まず、観客は熱狂的にカーテンコールを繰り返した。
ベートーベンが大好きな雪子はロビーに出ても、興奮冷めやらずといった表情で感想を話す。
「やはり歓喜の歌は素晴らしいわね!生きることの素晴らしさ、愛することの素晴らしさがダイナミックに伝わってきたわ!」
大紋は妹の興奮ぶりを
「お前はベートーベン好きだからな。しかし確かに素晴らしい演奏と合唱だったよ。…絢子さんはいかがでしたか?お楽しみになられましたか?」
兄らしくいなしながら、傍らの絢子には優しく尋ねる。
「…はい。とても感動しました。…あの…今夜のことは一生忘れません」
絢子は熱い眼差しで、愛の告白をするかのように訴えた。
明らかな愛の眼差しを受け、大紋はさり気なく距離を保つように答える。
「…それは良かったですね。良い音楽を聴くとやはり気持ちが豊かになりますからね。…暁はどうだった?楽しめた?」
優しく尋ねる大紋はいつもと変わらない。
「…ええ。素晴らしい演奏会でした」
なのについ、素っ気なく答えてしまう。
「暁はショパンが好きだから、ベートーベンは楽しめたか心配だったが、良かったよ。今度、ベートーベンの他の交響曲のレコードも貸そう。壮大な曲が多いけれど楽しめるはずだからね」
素っ気なく答える暁に尚も優しく言葉を重ねてくる大紋に、自分の狭量さが情けなくなる。
「お兄様は暁様にお優しいわね。私なんかよりずっと大切にしていらっしゃる感じだわ」
雪子の軽口にどきりとした暁は、やや貌を強張らせる。
そんな暁を気遣うように、大紋は明るく皆に話しかける。
「…では、食事にまいりましょう。隣の精養軒に席の予約をしてあるのです。…絢子さんもご一緒にいかがですか?」
行き掛かり上絢子を誘わないわけには行かず、しかしその辺りはおくびにも出さずに声をかける。
絢子は遠慮勝ちに大紋を見上げる。
「…でも…私は急に参りましたから…ご迷惑では…」
大紋は絢子に気遣わせないように穏やかに笑う。
「席の一つくらいすぐに増やせますよ。大丈夫です」
絢子に対する紳士な振る舞いをさすがだと思いながらも、胸の内がチリチリと焼け付くように痛む。

…その時…
「やあ!縣じゃないか!久しぶり!」
華やかな声と共に、暁の首筋に良い薫りがする温かい腕が巻きついた。
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