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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
「…僕は恐らく、一生女性は愛せないでしょう。…結婚することも、子供を持つこともないでしょう…」
風間は怯える子供を宥めるように優しく背中を撫でる。
「…いつから気づいたの?自分が女性は愛せないと…」
暁の潤んだ眼差しが、遠くを見る。
そして昔の記憶を手繰り寄せるように、口を開く。
「…僕は今日、酔っています。…だから…今日お話したことは全て忘れてください…」
「いいよ。…何でも話して…胸に詰まったものは全て吐き出してごらん…」
…風間の腕の中はどうしてこんなにも安らげるのだろうか。
男も女も愛せるという屈託のない大らかさ故か…。
風間には何を話してもいいのだという根拠のない確信のようなものがあった。
…暁は自分に語りかけるように話し出す。
「…僕の母は、優しいけれど愚かな人でした。…お屋敷を追い出され私生児の僕を生み、僕を育てる為にずっと地を這うように働いて働いて…。それでも学がない女性が稼げる額なんて知れています。…母は美しいけれど騙されやすい人で…常に女衒のような男達に食いものにされて…恐らくは売春まがいなこともさせられていたのだと思います。…狭い家の中で、母が男達に組み敷かれていいようにされているのを、布団の中で耳を塞いで耐えていたこともあります…。…だから、僕には男女の営みが汚らわしいものにしか思えなくなったのです…」
風間の温かい胸の中から顔を上げる。
少しでも同情めいた貌をしていたら、もう話すのは止めようと思ったのだ。
…しかし、風間はひたすら真っ直ぐな眼差しで包み込むように暁を見つめていた。
「…こんな話し…ご不快ではないですか?裕福なご家庭に育った先輩には、信じられないでしょう?」
風間はきっぱりと首を振った。
「少しも。続けて…」
「…それから母が亡くなり…僕が縣の兄に引き取られたのはご存知だと思います。人買いに連れ去られそうになった僕を救い出し引き取り、大切に育ててくれた兄にいつしか僕は恋をしました…」
…ふと、兄を思い出したのか、青ざめていた暁の頬がうっすらと上気する。
薄桃色の唇が綻ぶ。
…なんて綺麗なんだ…。
風間は見惚れた。
「…兄は美しく…逞しく強く優しく…僕の理想の男性でした。兄に触れられるだけでドキドキしました。…最初は…ただの憧れだと思っていました…けれど…ある日…」
暁はまた追憶の中へと足を踏み入れる。
風間は怯える子供を宥めるように優しく背中を撫でる。
「…いつから気づいたの?自分が女性は愛せないと…」
暁の潤んだ眼差しが、遠くを見る。
そして昔の記憶を手繰り寄せるように、口を開く。
「…僕は今日、酔っています。…だから…今日お話したことは全て忘れてください…」
「いいよ。…何でも話して…胸に詰まったものは全て吐き出してごらん…」
…風間の腕の中はどうしてこんなにも安らげるのだろうか。
男も女も愛せるという屈託のない大らかさ故か…。
風間には何を話してもいいのだという根拠のない確信のようなものがあった。
…暁は自分に語りかけるように話し出す。
「…僕の母は、優しいけれど愚かな人でした。…お屋敷を追い出され私生児の僕を生み、僕を育てる為にずっと地を這うように働いて働いて…。それでも学がない女性が稼げる額なんて知れています。…母は美しいけれど騙されやすい人で…常に女衒のような男達に食いものにされて…恐らくは売春まがいなこともさせられていたのだと思います。…狭い家の中で、母が男達に組み敷かれていいようにされているのを、布団の中で耳を塞いで耐えていたこともあります…。…だから、僕には男女の営みが汚らわしいものにしか思えなくなったのです…」
風間の温かい胸の中から顔を上げる。
少しでも同情めいた貌をしていたら、もう話すのは止めようと思ったのだ。
…しかし、風間はひたすら真っ直ぐな眼差しで包み込むように暁を見つめていた。
「…こんな話し…ご不快ではないですか?裕福なご家庭に育った先輩には、信じられないでしょう?」
風間はきっぱりと首を振った。
「少しも。続けて…」
「…それから母が亡くなり…僕が縣の兄に引き取られたのはご存知だと思います。人買いに連れ去られそうになった僕を救い出し引き取り、大切に育ててくれた兄にいつしか僕は恋をしました…」
…ふと、兄を思い出したのか、青ざめていた暁の頬がうっすらと上気する。
薄桃色の唇が綻ぶ。
…なんて綺麗なんだ…。
風間は見惚れた。
「…兄は美しく…逞しく強く優しく…僕の理想の男性でした。兄に触れられるだけでドキドキしました。…最初は…ただの憧れだと思っていました…けれど…ある日…」
暁はまた追憶の中へと足を踏み入れる。