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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
…暁が15歳の夏休みのことだった。
忙しい礼也は漸く休暇を取れ、暁を連れて軽井沢の別荘に行った。
暁は一日中兄を独占出来ることが嬉しくて、子犬のように纏わりつき側を離れなかった。
そんな暁に礼也は嫌な貌ひとつせずに、勉強を見てやったり、馬術の練習に付き合ったり、湖にボートに乗りに行ったりと夏休みを満喫させてくれた。
今思うと、夏休みの思い出など何ひとつない暁に楽しい夏の記憶を沢山作ってやりたいという礼也の愛情だったのだ。
…こんなに幸せでいいのかな…。
毎日、暁は大好きな兄の側で夢心地で過ごしていた。

そんなある日の昼下がり…。
お茶の準備が整ったと家政婦から伝えられた暁は兄を探しに庭に降りた。

軽井沢の別荘の庭もまた礼也は様々な趣向を凝らし、四季折々の花や高原にしか咲かない貴種な花を植えさせ、美しい英国式庭園を作り上げていた。
夢のように美しい薔薇のアーチをくぐり、兄を捜す。

「兄さん、兄さん…どこにいるの?」
…蔓薔薇の茂みの奥、四阿の籐の長椅子に礼也はいた。
「兄さん…」
近づいた暁は、声を潜めた。
礼也は長い脚を伸ばし、読書の途中で優雅にうたた寝をしていたのだ。
…兄さん…寝てる…。
礼也が無防備に寝ている姿を見たのは初めてだった。
兄は常に整った服装と姿でしか、暁の前に現れなかったからだ。

暁はそっと兄に近づく。
胸に置かれた本が落ちそうになっていたので、起こさないように外す。
そして、兄におずおずと熱い視線を注ぐ。
いつも乱れなく撫でつけられている髪は額に無造作に流され、兄を年より若く見せていた。
聡明な額、形の良い眉、ギリシャ彫刻のように高く整った鼻梁、美しい曲線を描く唇、男らしく色気のある顎のライン…。
見つめれば見つめるほどに引き込まれてゆく端麗な礼也の貌だ。

暁は、礼也の唇から目が離せなくなってゆく…。
礼也の唇は端正だが肉惑的な色香を醸し出している。
「…兄さん…」
見えない何かに引き寄せられるように、暁は礼也の貌に貌を近づけ、その唇に己れの震える唇を押し当てた。
掠れる声で譫言のように呟く。
「…兄さん…好き…」
それは一瞬のくちづけであったが、暁の下腹部に甘く痺れるような未知の衝撃が走った。
暁ははっと 弾かれるように礼也から離れ、その場から走り去った。

…暁は生まれて初めて精を放っていたのだ…。









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