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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
部屋の中は、暖炉の蒔が燃え爆ぜる音だけが聞こえていた。
風間はこの世にも美しい青年の唇から呟かれる話をまるで哀しくも艶めいたお伽話のように聴き惚れていた。
生々しい話を聴かされたのに、目の前にいる青年への印象は変わらない。
相変わらず、儚げで清らかで美しかった。
…だが、その奥にある妖しく湿った淫靡さが露呈したことに風間はぞくりと背筋を震わせた。
「…その時からです。…僕は兄さんが好きで…しかも男の身体に欲情すると自覚したのは…」
暖炉の火に照らされた暁の横顔は聖女のようであり、娼婦のそれでもあった。
「…自分の性的嗜好を自覚して苦しみました。…けれど一番絶望したのは、心から尊敬し愛している兄を劣情に塗れた眼で見ている自分でした。
…兄は僕を本当に大切にして可愛がってくれているのに…そんな兄を穢そうとしている。…あまつさえ、兄が誰よりも愛している女性に嫉妬し憎む自分がいる…。
最低の自分を知り…毎日苦しかった…」
暁の綺麗な瞳から水晶のような涙が白い頬に伝い始める。
「…そんな時に気づいたのです。春馬さんの僕に対する熱い視線や想いを…。
春馬さんは、兄の親友で僕が縣の家に引き取られた時からずっと勉強を教えてくれたり、星南に編入した僕に何くれとなく世話をしてくれていました。
けれどその一方で、春馬さんが僕を好きでいてくれていることを知っていました。彼は紳士だから、子供の僕に手を出したりはせず、ひたすら見護って愛していてくれた…。
…そんな春馬さんを、僕は利用したのです。
僕は、兄に欲情してしまう自分から逃げたかった。…はやく兄さんを忘れたかった…。
だから、春馬さんの僕への想いを利用した。…春馬さんが僕を奪ってくれるように素知らぬ振りをして仕向けたのです…。春馬さんは僕が仕掛けた巧妙な罠に嵌ってしまったようなものです。僕にさえ出逢わなければ、今頃は幸せな結婚をされていたかも知れません。…全ては僕が元凶なのです…!」
溢れる涙を拭おうともせずに気持ちを吐露する暁はしかし、美しかった。
彼の狡さ、巧妙さ、魔性の性が分かっても尚…いや、だからこそその美と日陰の妖艶さは輝いて見えた。
…春馬は恐らく全てを分かっていて、この美しい罠に自分から堕ちていったのだ。
例えそれが身の破滅に繋がろうとも、この稀有な美しい青年を手に入れられるのなら、寧ろそれは幸福だったのではないか。
風間はこの世にも美しい青年の唇から呟かれる話をまるで哀しくも艶めいたお伽話のように聴き惚れていた。
生々しい話を聴かされたのに、目の前にいる青年への印象は変わらない。
相変わらず、儚げで清らかで美しかった。
…だが、その奥にある妖しく湿った淫靡さが露呈したことに風間はぞくりと背筋を震わせた。
「…その時からです。…僕は兄さんが好きで…しかも男の身体に欲情すると自覚したのは…」
暖炉の火に照らされた暁の横顔は聖女のようであり、娼婦のそれでもあった。
「…自分の性的嗜好を自覚して苦しみました。…けれど一番絶望したのは、心から尊敬し愛している兄を劣情に塗れた眼で見ている自分でした。
…兄は僕を本当に大切にして可愛がってくれているのに…そんな兄を穢そうとしている。…あまつさえ、兄が誰よりも愛している女性に嫉妬し憎む自分がいる…。
最低の自分を知り…毎日苦しかった…」
暁の綺麗な瞳から水晶のような涙が白い頬に伝い始める。
「…そんな時に気づいたのです。春馬さんの僕に対する熱い視線や想いを…。
春馬さんは、兄の親友で僕が縣の家に引き取られた時からずっと勉強を教えてくれたり、星南に編入した僕に何くれとなく世話をしてくれていました。
けれどその一方で、春馬さんが僕を好きでいてくれていることを知っていました。彼は紳士だから、子供の僕に手を出したりはせず、ひたすら見護って愛していてくれた…。
…そんな春馬さんを、僕は利用したのです。
僕は、兄に欲情してしまう自分から逃げたかった。…はやく兄さんを忘れたかった…。
だから、春馬さんの僕への想いを利用した。…春馬さんが僕を奪ってくれるように素知らぬ振りをして仕向けたのです…。春馬さんは僕が仕掛けた巧妙な罠に嵌ってしまったようなものです。僕にさえ出逢わなければ、今頃は幸せな結婚をされていたかも知れません。…全ては僕が元凶なのです…!」
溢れる涙を拭おうともせずに気持ちを吐露する暁はしかし、美しかった。
彼の狡さ、巧妙さ、魔性の性が分かっても尚…いや、だからこそその美と日陰の妖艶さは輝いて見えた。
…春馬は恐らく全てを分かっていて、この美しい罠に自分から堕ちていったのだ。
例えそれが身の破滅に繋がろうとも、この稀有な美しい青年を手に入れられるのなら、寧ろそれは幸福だったのではないか。