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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
「まあ、俺も縣が馬場馬術に転向したら、また戻ろうかなあ」
のんきに呟く。
「え⁉︎…戻るんですか?…いいですよ、先輩は障害馬術を頑張られてください」
「え?なに?俺と一緒にはやりたくないの?」
「…率直に言うとそうです」
「縣!なんだよ、冷たいなあ」
「だって、先輩うるさいんだもん。…しょっちゅうちょっかい出してくるし…。集中できないから、先輩は障害馬術を続けてくださいね!」
「あ、厄介払いしようとした!酷いなあ、…俺と縣は秘密の一夜を過ごした仲だというのに…あんまりだなあ〜」
「…ちょっ…!月城の前で、出鱈目言わないでください!」
慌てる暁に対して、月城は声を立てて可笑しそうに笑った。
「…失礼、あまりに暁様が可愛らしくて…」
「月城!」
赤くなって拗ねる暁に、月城はしみじみした慈愛の口調で続ける。
「…暁様がお元気にしていらっしゃると、安心いたします…暁様にはいつもこんな風に笑っていていただきたいです」
「…月城…」
暁が恥ずかしそうに月城を見上げて、長い睫毛を瞬かせた。

…そう、完璧な貴公子然と成長した今でも、どこか寂しげに遠くを見ているような…儚げな美しい青年…。
だからこんな風に軽口を叩いて、生き生きしているとほっとする。
月城はそっと願う。
…幸せに過ごしてほしいと…
…別の主人の元に仕える自分には、ただ祈ることしかできないけれど…。


風間の馬が、馬房から連れてこられたのをしおに
「…それでは私は失礼いたします。…暁様、風間様、今日はお目にかかれて光栄でした。またお目にかかれる日を楽しみにしております」
恭しくお辞儀をし、美しい後ろ姿を見せてその場を去る月城に、風間は眉を上げる。
「…クールでストイックな執事だな…。
さすがは名門貴族の執事だ」
「…ええ、月城は憧れです。いつも優しく美しく冷静で賢く品があって…」
ふと、寂しげに微笑みながら月城が伯爵の愛馬に颯爽と跨がる姿を目で追う。
「…そして…とても遠い存在です…」
風間は静かに暁に眼を遣ったあとに、北白川伯爵家の美貌の執事が表情一つ変えずに、やや興奮した様子の馬を淡々と乗りこなす姿を興味深く眺め、独り言のように呟いた。

「…君の周りには俺のライバルが一杯だ…」

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