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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
…その妖しくも夜の白い蓮の花のように淫靡に輝く美しい貌で微笑った。
昔から、眼を見張るほどに美しい少年だった。
だがその美しさにはどこか儚さや哀し気な匂いが付きまとい、気にならずにはいられない少年であった。
…その美しさの訳がこの情事で明らかになったような気がして月城は、嫌悪や違和感など他の感情を抱くことがなかった。
…暁の美しさは、秘めた禁断の恋と…そして己れの性的嗜好を罰さないと快楽を得られないねじ曲がった被虐の美しさなのだと…。

…今日、月城の一番の衝撃は、密かに愛する主人、梨央と縣礼也のくちづけを目撃してしまったことと、二人の婚約発表になるはずだった。
梨央が礼也に抱きすくめられ、唇を奪われているところに遭遇した時には、胸が張り裂けそうになるほどの衝撃を受けた。
梨央は月城が執事見習いとしてこの北白川家に仕え始めた時からずっと慕い続けてきた存在であった。
自分の手には決して届かない、清らかな高嶺の花…。
ただ見つめるだけの存在であった。
だから礼也が後見人として梨央の側に存在し、口さがない者たちが、礼也と梨央は何れ結婚するのだと噂するのを聞いても、動揺することはなかった。
縣礼也は梨央に求婚する資格は十二分に備えたその容姿も人柄も頭脳も品位も資産も家柄も…何もかもが満たされた非の打ち所のない紳士だったからだ。
…梨央様はいずれは縣様とご結婚されるのだろう…。
それは月城が自分に言い聞かせていた言葉でもあった。

愛し、憧憬している女主人の他の男性とのくちづけも、婚約発表も寂しく悲しいものではあったが、一緒に二人の秘めた場面を目撃した暁の一言には上回る衝撃を受けた。
「…二人とも失恋だね…」
あんなに哀し気な微笑みを月城は見たことがない。
…暁様は、礼也様がお好きだったのか…。
腹違いとはいえ、血を分けたお兄様を…。

自分のひそやかな片恋の終焉などどこかに消え去ってしまうほどの驚きだった。

直後に目撃したその暁の男との激しい情事…。
…暁の濡れた眼差しがまざまざと蘇る。
その瞳は淫らに濡れて輝いていたが、とても情事を心から楽しんでいるようには思えない…哀しみと諦観に満ちたものだった。

…暁様は苦しい恋をなさっているのだろうか…。
二人が激しく愛の交歓をしていた場所に脚を留める。
…石畳の上に窓から差し込む月明かりに照らされ、光るものがあった。



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