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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
翌週、月城は乗馬倶楽部に伯爵の愛馬、ジークフリートの様子を見に行った。
先週末、伯爵は従者の狭霧と遠乗りに出かけた。
その後の馬の蹄の状態のチェックや世話などは月城の仕事だった。
馬は北白川家に仕えるようになって初めて乗った。
伯爵の美貌の従者、狭霧には優しい物腰だが恐ろしく厳しく乗馬を仕込まれた。

初日に落馬を繰り返す月城に、中性的な美貌に優し気な笑みを浮かべ言い放った。
「伯爵は乗馬の名手だよ。執事の君が馬から無様に落ちるなどあってはならないからね。何れ梨央様も馬に乗られる日が来るかも知れない。梨央様になにかあった時にお守りするのは君だ…さあ、もう一度」

田舎育ちの月城は動物に触れることが大好きだったので、狭霧の厳しい指導も苦にはならなかった。
伯爵の愛馬と触れ合うのはとても楽しい時間であった。

馬房で、蹄の手入れをしていると、ジークフリートは月城と駆けたくて、落ち着きなく嘶いた。
月城は小さく笑い、その温かな白い身体を撫でながら声をかける。
「待て待て、きちんと手入れしないと、蹄が割れて大変なことになるんだぞ。…後で早駆けしてやるからな」

「…君は動物にも優しいんだね…」
背後から、突然かかった声に月城は思わず振り返る。

黒の燕尾型の乗馬ジャケットに黒いリボンタイを結んだ白いシャツ、白い細身の乗馬パンツ、黒い牛革の乗馬ブーツというこのまま英国王室主催の乗馬大会に出場出来そうな優雅な出で立ちの暁が佇んでいた。
「…暁様…」
先週の出来事が頭をよぎり、次の言葉が出ない。
そんな月城を包み込むように柔らかく微笑い、彼は告げた。
「…少し…話せるか?」
「はい」
頷く月城に美しい目で合図すると、暁はしなやかに馬房を出た。
月城も後に続く。
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