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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
夜半から、雨は音もなく降り始めた。
暁は読みかけの本をそっと閉じ、窓の外を眺めた。
…もうすぐ梅雨かな…。
外の闇を取り込んだ窓は、まるで鏡のように暁自身を映し出していた。
暗闇に自分一人だけいるような錯覚に陥り、暁は不安から分厚いゴブラン織りのカーテンを素早く閉めた。

…幼い頃、貧しさゆえに暁の家は夜は灯りがなかった。
かろうじて短い蝋燭が一本あるだけだった。
暗闇が未だに苦手なのは、その影響だった。

…今はどこもかしこも煌々たるシャンデリアの光が輝き、夜でも昼間のように明るい宮殿のような屋敷にいるというのに…。
暁は苦笑し、柱時計を見上げる。
図書室の古いイタリア製の柱時計はゆっくりと振り子を動かしている。
針は早くも12時を指そうとしていた。

…兄さん、今夜も遅いな…。
最近の兄のことを想うと、気掛かりなことが胸をよぎる。


「梨央さんに腹違いのお姉様がいらしたのだよ」
朝食の席で、礼也が教えてくれたのは先月のことだった。
暁は驚きの余り、フォークの手を止めた。
「…え?…腹違いの…?」
「そうだ。北白川伯爵が、ご結婚前に恋仲だった芸者との間に生まれたお子らしい」
…事情は違うが、自分みたいだ…。
「梨央さんが伯爵の命で探し当てて、今、その姉上様は麻布のお屋敷に引き取られて、ご一緒に暮らしておられる」
「…そうなんですか…」
あの引っ込み思案な梨央が…
見ず知らずの姉を探し当て、あまつさえ屋敷に引き取るなんて…
その意外性に驚く。

「その綾香さんと仰る姉君はなんと、浅草オペラの歌手なのだよ」
暁は眼を見張る。
「え⁈浅草オペラの歌手?」
暁の長屋は浅草にあった。
…そういえば周りの長屋にも浅草の芸人や踊り子、歌手が住んでいたっけ。
彼らは気さくで気の良い人間が多くて、小さな暁に時々、お菓子をくれたりして可愛がってくれた。
…そんな数少ない幼少期の楽しい思い出がよぎった。

「…綾香さんはどのようなお方なのですか?」
浅草オペラの歌手と聞いて、近しい気持ちになった暁は尋ねた。
すると、礼也は珍しく困ったような楽しげなような…複雑な表情をした。
「それはそれはお美しい方だ。…私もあのように強烈な美しさを放つ方には初めてお眼にかかったよ」
礼也が婚約者の梨央以外の女性を、ここまで褒めるのは大変に珍しい。





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