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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
暁は切れ長の瞳を見開いた。
「…え?」
尋ねる声が震える。
礼也の手が優しく暁の艶やかな黒髪を撫でる。
「…お前が恋をしていることは分かっている。…お前は年々美しく艶やかになる…。きっとその人の影響だろう。
…だが、お前の恋は私にはどうしても幸せなものには思えないのだ。お前はいつもどこか寂し気な眼差しをしている。…その人との恋がそうさせているのではないのか?
…その人と結婚をすることは出来ないのか?それで悩んでいるのではないか?」

礼也は暁が不倫の恋をしていると思っているのだろう。
暁は、大紋との関係を勘付かれた訳ではないと安堵しつつも目を伏せた。

答えることは出来ない。
自分が同性愛者であることと大紋との関係を礼也に話すくらいなら、死んだ方がましだった。
そんなことをしたら、いくら自分に寛容な礼也でも自分を見る目が変わるだろう。
…いや、それだけならまだしも、自分のことを嫌悪するかも知れない。
…兄さんに嫌われる…。
考えただけでも、身がすくむような恐怖だった。
「……」

黙り込んでしまった暁に、礼也は安心させるように優しく抱きしめ、背中を撫でた。
「…すまなかった。お前を困らせるつもりはなかったのだ。…言いたくないなら、言わなくても構わない。
…ただ、私はいつでもどんな時でも、お前の味方だ。…それだけは覚えていてくれ…」
礼也の優しい美声が鼓膜の奥に浸み渡る。

「…兄さん…」
暁は逞しい兄の肩に手を回し、ぎゅっとしがみつく。
…優しい兄さん…
…自分が傷ついている時でも、弟の僕の恋の心配をしてくれる兄さん…
…こんなにも優しい兄さんを、僕は裏切っている…
兄さんに決して語ることが出来ない暗い秘密を胸に抱いて…

暁は自分の恋の罪深さをひたすらに嘆いたのだった。
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