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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
風間邸の舞踏室はヨーロッパの小国のとある王室の舞踏室を模したと言われている。
豪華絢爛な天井画、クリスタルが眩いシャンデリア、イタリア大理石の床…と眼を見張る美麗な造りであった。

…人々が笑いさざめきながら、ワルツに興じ始めている。
ホテル王の美貌の御曹司、風間をちらちら見る若き令嬢も多いが、大紋と暁に向ける熱い眼差しも負けてはいない。
大紋も暁も社交界では有名人だからだ。

こうした舞踏会では、大紋も暁もマナーとして主催者の令嬢と踊ったり、若しくは儀礼的にダンスを申し込んだりする。
大紋は暁が若い令嬢と踊る事を微笑ましく眺めているが、暁は大紋が他の令嬢や夫人と踊るのを見るのも好きではなかった。
大紋にダンスを申し込む令嬢や夫人達は、明らかに大紋を魅力的な雄として生々しい眼差しで彼を見ているのが分かるからだ。

もちろん、大紋は社交辞令で踊っているのが分かるのだが…暁の身体の内側から沸き上がる嫉妬の気持ちを抑えることができない。
…それは、自分が彼女達のように女性としての性を受けていたならば、彼と結婚し、彼の子供を身籠ることができたかも知れないのに…という自分でも収まりのつかない理不尽な想いからだ。
…そんなことを考えても仕方ないのに…。
しかし…
自分には大紋の子供は産めない…。
結婚をすることもできない…。
その厳然たる事実が暁を暗鬱な気持ちにさせるのだ。

物憂げな暁を、大紋が敏感に察知し
「どうした?暁…。気分でも悪いのか?」
心配そうに尋ねる。
暁は慌てて首を振る。
「…大丈夫です…」
安心させるように大紋に笑いかけたその時だった。

「…春馬様…」
大紋の背後から弱々しく囁くような声が聞こえた。
振り返ると、そこには西坊城子爵夫妻に庇われるように佇む絢子がいたのだ。
大紋は息を呑む。
「…絢子さん…」
絢子は華奢な身体に白いレースのドレスを身に纏い、震えながら、大紋を見つめた。
「…春馬様…。先日は取り乱しまして失礼いたしました…」
「…いいえ。…私の方こそ…きつい言い方をしてしまいました。申し訳ありませんでした」
暁は固唾を飲んで二人を見守る。
絢子は首を振る。
「…いいえ。春馬様は悪くはありません。いつまでも春馬様を忘れられない私がいけないのです。…春馬様、私は今日限りで貴方様を忘れます。…ですから…最後に私と、ワルツを踊っていただけませんか…?」
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