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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
麹町の西坊城邸に着くと、執事と並んで西坊城子爵が待ちかねたように大紋を出迎えていた。
慌ただしく車を降りる大紋に深々と頭を下げる。
「…誠に申し訳ない…こんなことに君を巻き込んでしまって…」
疲労の色が濃い子爵に、大紋は首を振り声をかける。
「いいえ。そのようなことは良いのです。…それより、どういうことなのですか?」
子爵は邸内に大紋を招き入れる。
「…今朝、いつもの時間に絢子の支度をしに乳母が部屋を訪れたら…」
子爵は苦しげに絞り出すように告げた。
「…絢子が寝台に横たわっていた。…傍らには睡眠薬の空瓶が落ちていた。…娘は睡眠薬を飲み、自殺を図ったのだ…」
大紋は絶句する。
赤い天鵞絨が敷かれた大階段を登りながら、子爵は動揺が続く声で言った。
「…幸い、発見が早かったので大事には至らなかったが…朦朧とする意識の中、ずっと君の名前を呼んでいるのだ…それはもう胸が痛くなるくらいに切ない声で…。
私は…もう見るに見かねて君を呼んでしまったのだ…」
大紋は目を閉じた。
…自殺を図ったのだとすると、理由は火を見るよりも明らかだろう。

屋敷内が慌ただしい。
白衣を着たナースが部屋を出入りし、メイド達も子爵と大紋を見るとお辞儀をしつつ寡黙に通り過ぎる。

二階の絢子の部屋に入る。
天蓋に白いチュールが掛かった優雅な彫刻が施された白い寝台に、絢子は寝かされていた。
蒼ざめた花のような小さな顔…
薄い瞼は閉じられ、色を失った唇から浅い呼吸が漏れていた。
白い寝巻きを着せられ、透き通るように白く華奢な手を傍らの子爵夫人が握りしめていた。
夫人は大紋を見上げると、涙ぐみながら頭を下げる。
そして、娘の手を握りながら嗚咽を漏らした。
「…私がいけなかったのです…。外国に行き、大紋様を忘れるよう生活を変えなさいと説得してしまったから…このようなことを…」
西坊城子爵が低い声で諌める。
「…やめなさい、喜久子。英国に行くことは絢子も承諾したことではないか。…絢子の心が弱かったのだ。…私たちが溺愛しすぎたからやも知れぬ…」

…両親の話し声で、絢子が静かに目を覚ます。
長い睫毛が震え、瞼が開く。
夫人が涙声で、娘に囁く。
「…絢子さん…!…大紋様が来て下さいましたよ…」
絢子のぼんやりした瞳がゆっくりと大紋を探し、漸く眼が合うと、その澄んだ瞳からはらはらと透明な涙が零れ落ちた。




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