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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
…夜会は苦手だ…。
基本的に、物静かで多くの人々と交流を結ぶことが得意ではない暁は、大勢の上流階級の人々と言葉を交わし、交流しなくてはならない夜会や舞踏会が好きではなかった。
「縣家の息子が社交嫌いでは、困るな」
苦笑しながらも、礼也はそれを決して甘受はしなかった。
敢えて暁を様々な夜会に連れ出した。
礼也は暁を大層可愛がるが、彼の為だと思うことには厳しいくらいに指導し、彼を容赦なく鍛えた。
それは全て、愛人の子供である暁が社交界に受け入れられ、確固たる地位が築けるようにとの礼也の何よりの親心だった。
それが分かっていた暁は、礼也を恨むこともなく、むしろ兄の温かい愛情に感謝しつつ、密かに努力をし続け、今日に至ったのだ。

…兄さんには申し訳ないけれど…やっぱり夜会は苦手だな…。
暁は自分に苦笑する。
そしてふと、いきなり何の前触れもなく、大紋の面影が浮かび、暁の胸は甘く締め付けられた。

…最近、春馬さんの貌を見ていないな…。
ここ10日ほど、大紋からの連絡が途絶えていた。
いつもなら、縣商会にも三日に一度は貌を出し、様々な実務チェックをしてゆくのにその仕事も後輩弁護士が代理に行いに来ていた。
不審に思った暁が尋ねると、彼は暁の並外れた美貌を眩し気に見上げながら
「…はい。所長は少々お忙しくて…」
と言葉を濁した。

…体調が悪い訳ではなさそうだけれど…。
暁は気に掛かっていた。
さりとて、自分から大紋の事務所や大紋家に電話することは気が引けた。
…もし、迷惑そうな声を出されたら…
そう思うと、気持ちが萎えてしまい、何度も受話器を戻してしまう暁であった。

あんなにも狂おしく愛されていながらも、彼は自信を持つことができなかった。
寂しい幼少期を過ごして来た暁は、愛されることに常に怯え、懐疑的になり、悲観的な気持ちでいたのだ。

…けれど…
暁は夜風に髪を靡かせながら、華奢な我が身をそっと抱く。
…この浅ましい身体は、彼を求めて夜な夜な疼く。
もはや大紋に激しくくちづけされ、熱い楔を打ち込まれないと満たされない身体を持て余す。
…なんという浅ましくも淫らな身体なのだ。

暁は我が身が厭わしく、唇を噛み締める。

「…まあ、こんなところにいたの?…ああ、貴方には相応しい場所かもね。…日陰の女の子供ですもの」
毒を含む辛辣な声が背後から飛んだ。
暁ははっと振り返る。


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