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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
その人物の顔を見て、暁は息を呑んだ。
「…奥様…!」
そこには礼也の母であり縣家の正妻、縣 黎子が佇んでいた。
派手な真紅の絹のドレス、黒いオーストリッチのストールを肩にかけ、濃い化粧を施した黎子は、意図のわからない不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと暁に近づいてきた。

「…まあまあ、随分とお上手に化けたこと。見かけだけはまるで生れながらの貴公子のよう…礼也さんがそれはそれは可愛がっていらっしゃるようですものね。…無一文の妾の息子が本宅に引き取られ、名門の星南学院に入って帝大へ…そして今は縣商会の取締役の一人ですって?
…フフフ…礼也さんも酔狂がすぎるわ。なぜ泥棒猫の息子にそこまでの温情を掛けてやるのかしらね…?」

礼也の母、黎子とはこれまで一度、夜会で遭遇したことがあった。
その時は礼也がそばにいてくれたので、黎子が暁に声をかける前に、彼が前に出て庇ってくれた。
直接的に対面したことはこれが初めてである。
暁は身を強張らせ、瞬きもせずに近づいてくる黎子を見つめた。
黎子は暁の前に立ち塞がると、頭から爪先までまるで商品を値踏みするかのように冷たい眼差しで見回した。
そして、不機嫌そうに唇を歪める。
「…薄汚い泥棒猫の息子の割には、随分とお綺麗だこと」
「…あの…奥様…」
黎子は猫撫で声で続ける。
「…どういう訳か礼也さんが、貴方を大切に育てたのですものね。…何処の馬の骨の息子ともわからない貴方を…。わたくしに楯突いてまで…」
「…感謝しております…兄さんには…。お、奥様にも…母が申し訳ないことをしたと…」
必死で勇気を振り絞り、発した言葉を黎子は無視する。
「ねえ、貴方は大変な美男子で、秀才で、社交界のお嬢様方の憧れの的でいらっしゃるらしいじゃないの。…なのになぜ、お付き合いされているお嬢様がいらっしゃらないの?浮いた噂一つお持ちではないわよね?」
「…それは…」

口籠る暁に黎子は濃い紅が塗られた唇を歪めて笑う。
「…礼也さんのご親友の大紋春馬様…」
暁の長い睫毛が震えた。
「あの方と貴方はどういうご関係?」
…奥様は何を仰ろうとしているのだろうか…
混乱する頭の中で、暁は考える。
「…親しい友人です…」
ふふ…と黎子は含み笑いをした。
取って置きの切り札を出すようにゆっくりと口を開く。
「…武蔵野のお家…あれは貴方達の逢引き用の隠れ家なのではなくて?」

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