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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
「…え、ええ…何もありません…奥様は僕に近況をお尋ねくださっただけです…」
今にも倒れそうなほどに蒼白な貌…表情も読み取れない貌で礼也に答える。
礼也はじっと暁を見つめたが、すぐに暁を庇うようにそっと肩を抱き
「…帰ろう、暁…」
優しく声をかけた。

そして、目の前の母親に儀礼的に
「それではお母様、失礼いたします。ご機嫌よう」
と会釈し、暁を促しその場を去ろうとした。

そんな息子に黎子は、含み笑いをしながらねっとりと囁く。
「…礼也さん。たまには鎌倉の家にいらしてよ。…積もる話もしたいものだわ」
「お母様の愛人とご一緒に…ですか?…丁重にご辞退申し上げますよ。お母様も余り羽目を外されないことですね。…若きツバメは何人いても構わないが、どうせ最後は捨てられてしまうのですよ。もう少しまっとうなお相手とラブアフェアは楽しまれてください」
息子に指摘され、黎子はむっとしたように眉を逆立てる。
「礼也さん!」
叱責の声も無視し、しかし黎子の前を通り過ぎる刹那に立ち止まると、振り返る。
「…お母様がどなたと遊ばれようとご自由です。しかし、暁に何かなさろうとするのなら、私は黙ってはおりません。…これは以前にも申し上げましたが、どうぞお忘れになられませんように…」
礼也は端正だが冷ややかな眼差しを母親に向けると、そのまま暁の肩を抱き、バルコニーを後にした。
…後には、憤然としながら扇を腹立たしげに動かす黎子だけが残されたのだった。

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