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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
大紋が武蔵野の家に着いた時には既に夜の9時を回っていた。
本当はもっと早く駆けつける筈だったのに、急な依頼者の来訪を捌いていたらこんな時間になってしまった。
焦る気持ちで大紋は車から降り、玄関に入る。
…と、庭の生垣の向こうに白い人影が目に入り、脚を止めた。

…暁が乳白色の紋紗の単衣に藤色の帯を締め、縁台にぼんやりと腰掛けていたのが見えたのだ。
暁の着物姿は初めてだった。
縁台に置かれたランプの灯りに照らされた着物姿の暁は、まるで美しい幽霊画のように幽雅で儚げで…どこか禍々しかった。
気配に気づいたのか、暁が大紋を振り向く。
白い小さな貌がひんやりと薄く笑った。
ぞくりと背筋に怖気めいた戦慄が走るのを感じながら、暁に近づく。
「遅くなってすまなかった」
暁は微笑みながら首を振る。
「…お忙しかったのではないですか?」
「いや、急な依頼者が入ってね。…それよりも…」
縁台に並んで座り、暁の着物姿をじっと眺める。
「…暁の着物姿を初めて見たよ…凄く綺麗だ」
暁は仄かに笑う。
「…僕は14歳までずっと着物でしたから。…もっともぼろぼろの絣の着物でしたけれど」
白い紗の着物は、涼しげで下に着ている純白の襦袢がほのかに透けて見えた。
密やかに匂い立つような色香に、大紋は思わず暁の肩を引き寄せる。
「…暁…。逢いたかったよ」
暁は素直に抱かれながら、大紋の胸の中でぽつりと呟いた。
「…花火を…」
「…え?」
「…花火を見たかったんです…」
「花火?」
「…今日は大川の花火大会だったんです」
唐突な言葉に、大紋は一瞬、面食らう。
暁は優しく微笑む。
「春馬さんは山の手育ちだから、大川の花火大会なんてご存知ないですよね。…僕は下町育ちだから大川の花火大会は、夏の一番の楽しみだったんです。…でも…」
哀しげな微笑みを浮かべながら呟く。
「…うちは貧しかったし、母が忙しかったから、近くで見物をしたのは一度だけでしたけれど…」
ふっと宵闇濃い夏空を振り仰ぐ。
「…母さんが新しい浴衣を作ってくれて、花火大会に連れて行ってくれたんです。…僕を抱っこして、一緒に大きな花火を見せてくれて…帰りに屋台で水飴を買ってくれました…」
…楽しかったなあ…。
…でも…
「…子供の頃の楽しい思い出は、これっきりです…」
宵闇に溶け入りそうな儚げな淋しい横顔だった。
大紋の胸は切なく痛んだ。






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