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暁の星と月
第2章 新たな扉
今日の勉強は温室でしよう。
…そう言い出したのは大紋であった。
「…温室?」
驚く暁に大紋は理知的に整った眼元で目配せをした。
「そう。…夜の温室。…薔薇が綺麗だよ」

…薔薇…か…。
確かに、ガス灯に照らされた様々な種類の薔薇の花々は百花繚乱といった趣きで、夜の温室はまるで虚構のような幻想的な美しさであった。
ランタンのランプを片手に大紋は暁の手を大切そうに引きながら温室をそぞろ歩く。
「…足元が暗いから、転んだら大変だからね」
大紋も礼也並みに心配性だ。
そんなに気を遣わせて申し訳ないな…と思いながらも
…でも…今夜は大紋の大きく温かな手が心強い。

「…礼也は今夜は北白川家だって?」
ランタンを籐のテーブルに置きながら、大紋はさらりと尋ねる。
暁は思わず口ごもる。

…兄の礼也が後見人をしているひと…白薔薇姫の名は北白川梨央だと言うこと。
その少女は11歳だと言うこと。
彼女は類稀なる美少女らしいと言うこと。
…そして…
礼也はその少女を心から愛し、中世の騎士のごとく恭しく仕え、彼女をこの上なく大事に庇護しているらしいことを、この数週間で暁はなんとなく知ることとなった。

「…は、はい。…北白川伯爵がご帰国されたので、晩餐会に呼ばれたそうです」
兄の水際立った美しい黒い燕尾服にホワイトタイ姿を思い出す。
礼也は本当に晴れやかで嬉しそうな顔をしていた。
「…では行ってくるよ。…なるべく早く帰るからね」
優しい兄はこんな時も暁を気遣う。
暁は一生懸命笑って首を振る。
「ゆっくりしていらしてください。僕は大紋さんと編入試験の対策の勉強をしていますから…」
…あまり無理するなと、暁の頭をくしゃくしゃと撫でて、礼也はすらりとした美しい長身の後ろ姿を見せながら、玄関を出て行った。

「君は行かないの?」
大紋はテキストを広げながらさりげなく聞いた。
暁は静かに首を振る。
「…兄さんは何回も誘ってくれたんですけど、僕が断ったんです。…梨央様はとても内気な方みたいですし…それに…折角の兄さんと梨央様の時間を邪魔しては悪いから」
…嘘だ。
本当は、兄が北白川梨央を愛し気に見つめたり、話しかけたりするところを見たくなかったのだ。
そんなところを見たら、自分がどんなに醜い嫉妬の気持ちに苛まれるか…
それが怖かったのだ…。
己れの気持ちと向き合う勇気がなかったのだ。
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