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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
その言葉通りに、風間はそれから暁の恋人のように振る舞った。
休みの日は朝から自慢のルノーで縣邸に乗り付け、ベルを鳴らす。

「…暁様、風間様がお見えになりました。
今日は遠乗りですか?…楽しんでいらしてください」
普段は慎重な執事の生田もすっかり風間に心を許していた。
人たらしの風間は人の懐に入るのが上手い。
無邪気な美しい笑顔で見るものを懐柔してしまうのだ。

今日は珍しく家にいた礼也がわざわざ見送りに出てきた。
暁を優しく抱きしめながら額にキスをして、送り出す。
「楽しんでおいで、暁。寒くなってきたから、マフラーは巻きなさい。
…風間くん、暁をよろしく頼むよ。ただし、早駆けは禁止だ。落馬したら危ないからね」
礼也は相変わらず過保護だ。
けれど最近なんとなく元気がない暁が風間に誘われ、外出するようになっているのをほっとしているようだった。
「お任せください。…遠乗りのあとはうちのホテルに泊まっていただきます。明日の朝にはお送りしますので、ご心配なく」
人好きする笑顔で礼也に答える風間の隣で、暁ははらはらする。
風間の家が経営しているホテルに泊まることを奇妙に思うことはないだろうが、兄に言えない秘密を胸に秘めている暁はやはり後ろめたい。
…礼也に対してこれからずっと、自分の性的指向をひた隠しにしなくてはならないことを考えると憂鬱になる。

暁を優しく助手席にエスコートしながら微笑みかける。
「…今日は一段と綺麗だね。暁は色が白いから、蒼がよく似合う」
暁のセーターを褒めちぎる。
…いつもこんな感じだ。

気恥ずかしくて俯く暁を優しく見つめて手を軽く握るとエンジンをかけた。
「今日は遠乗りをして、それから湘南の海を見に行こう。辻堂に友人が経営している美味いビストロの店があるんだ。…暁の仕事の参考になるかもしれない」
屈託なく享楽的に見えて、風間は実に細かく暁のことを考えてくれている。
一緒にいて暁の仕事のヒントになるような話をしてくれるし、さりげなく暁が行きたかったところにも連れていってくれる。
…そして…

「…夜は二人きりだ…。…ゆっくり愛し合おう…」
風間の指が淫らに暁の指の間を行き来する。
暁は思わず甘いため息を漏らす。

…完璧な…完璧すぎる恋人…。
自分には勿体無いような完璧な恋人…。

…けれど…。
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