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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
翌週の日曜日、風間は暁をいつものように車で迎えに来た。
「…行きたいところは決まった?どこでも連れていってあげるよ」
優しい微笑み…風間は本当に優しい。
…暁をとことん甘やかし、癒してくれようとする。
…けれど、なにかが引っかかる…
嫌な感情ではないのだけれど…

「…アルフレッドに会いたいです」
風間は外人めいた仕草で、天を仰ぐ。
「ああもう…!君はもしかして、俺よりアルフレッドの方が恋しいんじゃないか?」
「そうかもしれません」
「ちょっと!なんだよ!」
暁は吹き出す。
やっぱり風間といると楽しい。
…この居心地の良さについ、甘えてしまいそうになるのだけれど…。

…その時だ。青銅の門扉の向こうから切羽詰まった老婆の声が響き渡った。
「忍様!忍坊っちゃま!いらっしゃいますか⁈」
振り返った先には、先日ホテル・カザマで会った司の乳母のミツが佇んでいた。
尋常ならざる様子に、二人はミツのもとに急いだ。
「どうした?ミツ、何かあったのか?」
ミツは無礼を詫びながら、緊迫した様子で説明を始めた。
「…忍様は縣男爵様のお宅に行かれていると伺いまして、無礼を承知でまいりました」
「いいから…どうしたんだ⁈義姉さんに何かあったの⁈」
「た、大変でございます!ご、御前様が、司坊っちゃまを奥様から引き離されてしまいました!司坊っちゃまはこれから本家で育てるからと…。
そして奥様はすぐにご実家に戻られるようにとのご命令が…」
風間の表情が一変する。
「なんだって⁈」
「し、しかも…奥様はご実家に戻されるや否や、四国の海運王の元に嫁ぐようにとの、ご実家からの命があるようでございます…!あ、余りに酷い仕打ちにいてもたってもいられずに、忍様をお探ししてしまいました」
「…義姉さんが再婚⁉︎…あの実家の鬼ババアならやりそうなことだ…!」
風間は怒りを押し殺しながら唇を噛みしめる。
「なぜ、百合子さんのご実家がそのような酷いことを⁈」
暁は尋ねる。
「義姉さんの実家は没落華族で、実家には義姉さんの継母しかいないんだ。実のご両親は他界されている。…華族の嫁が欲しかった親父が莫大な金を支払って義姉さんと兄さんとの縁談をまとめた。…幸い兄さんは良い夫だったから、夫婦は円満だった。…だが兄さんが事故死して、義姉さんが未亡人になってから、実家の継母が豹変しだしたんだ」
風間の瞳は怒りで燃えていた。
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