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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
月城が黙ったまま、暁をじっと見つめていた。
「…それ以来、兄さんは就寝前には必ず僕の部屋に来てお寝みのキスをしてくれるようになったんだ」

…お寝み、可愛い暁…良い夢を…
そう言いながら礼也は額にキスをしてくれる。
兄の良い薫りを吸い込み、目を閉じる。
…ここは天国みたいだ…。
暁は、礼也が優しく髪を撫でてくれるのを感じながら、眠りに就く。
…兄さんがいればもう何もいらない…。
そう思うのも、この瞬間だ。

「…やはり暁様にとって、礼也様は特別な存在なのですね…」
月城がぽつりと呟いた。
「…え?」
「…昔から感じておりました。…暁様はずっと礼也様に恋しておられるようだと…。
…大紋様がおられた時も、暁様は礼也様に対してずっと変わらぬ想いを持ち続けていらっしゃるのが分かりました…」
どこか冷めた口調に暁は慌てる。
「…それは…だって、兄さんだから…」
…兄は暁にとって唯一無二の存在なのだ。
「それだけですか?」
月城の眼鏡越しの眼差しが冷ややかだ。
「…昔は…恋をしていたと思う。…子どもだったし、兄さんが全てだったから…でも今は…」
一生懸命説明しようとする暁に、月城は静かに…しかし温度のない口調で語り出した。
「…そうでしょうか?…私には、暁様は今もまだ礼也様に恋をしておられるように見えます。…貴方は、無意識に礼也様に全ての男性の影を重ねておられるのです…。
…けれど、礼也様のように完璧な紳士で、何もかも兼ね備えていらっしゃる方は世界広しとはいえど、他にはおられないでしょう…。
…暁様の中にいらっしゃる礼也様に勝てる方はどなたもいないのです…」
月城の端正な貌が苦しげに歪む。
「…月城…?」

…私も…
と、月城は微かな声で呟こうとして、ふっと息を吐き、寂しげに微笑った。
「…いえ…、不遜なことを申し上げようとしてしまいました。申し訳ありません…。…執事の分際で、暁様に意見を申し上げるようなことを…。お許しください」
頭を下げた月城に、暁は返す言葉が見つからなかった。

…やはり、月城とは分かり合えないのだろうか…。
…月城のことが知りたくて…自分のことを知ってもらいたくて…必死に言葉を尽くしても…彼は暁の前で見えない扉を閉じてしまっているように、暁には思えるのだ。
…月城は…僕に興味がないのかもしれない…。
そう思うと、暁の胸はずきりと痛んだ。







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