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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
「…暁様…!」
いたたまれずに月城から貌を背ける。
「…僕に気を遣って優しくしてくれたのだろう…もういいんだ。…ありがとう」
深く息を吸い込み、思い切って告げる。
月城の貌を見なければ、心の内を晒け出せる気がしたからだ。

「…僕は…君が好きだ」
暁の背後で息を呑む気配がした。
怖くて振り返ることなどできない暁は、そのまま続ける。
「…君といると心地よいし、楽しい…そんな気持ちになったのは君が初めてだったから…嬉しくて…つい君の優しさに甘えてしまった。
…でも、もういいんだ。…異性愛者の君を巻き込む気はないし…それに…僕はもう恋をして傷つくのは怖い…綾香さんや梨央さんみたいに強くはない…。…だから、もう誰も好きにはならない…」

玄関の扉が開き、縣家の運転手が顔を覗かせる。
「暁様、お車の用意ができました」
「…今行くよ…」
暁は、そのまま月城の貌を見ずにいとまを告げる。
「…では、失礼するよ…。お二人によろしく伝えてくれ…」
玄関の扉に向かい、脚を踏み出した時、暁の手がひんやりとした手に包まれ、そのまま強く握られた。
驚いて振り返る。
月城の端正だが怒りを秘めたような眼差しが暁を捕らえた。
「暁様!…私は…!」
月城の手が痛いほど暁の華奢な手を握りしめる。
暁は、月城の心の内が知りたいと思った。
その氷のように冷ややかに見える美しい貌に秘められた心の内を…
彼が何を考え…暁をどう思っているのか…
暁は勇気を出して口を開いた。
「…言ってくれ。…君が何を考えているのか…僕のことをどう思っているのか…」
月城の端正な眉が苦しげに顰められる。
形の良い唇が一瞬開かれ、何かを語ろうとしたが…それは言葉にはならず、再び引き結ばれた。

…やっぱりそうか…
暁は諦観の溜息を一つ吐き、自分から月城の手を力なく離す。
「…いいんだ。…おかしなことを聞いてしまったね…すまない…。じゃあ…」

開かれた扉のほうに歩き出す暁に、月城が再び声をかける。
「暁様!…お待ちください!」
…そんな声で呼ばないでくれ…
振り返りたくなるから…
暁は月城の言葉を振り切るように、足早に玄関を出る。
運転手がドアを開き待っている車に乗り込む。

窓の外には追ってきた月城が、食い入るように暁を見つめる彼の眼差しを感じる。
しかし暁は前を向いたまま、運転手に告げた。
「…出してくれ…」






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