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暁の星と月
第3章 暁の天の河
礼也は屈託無く、隣の暁の頬を軽く抓りながら、悪戯っぽく続ける。
「暁だってもう17歳だ。恋の一つや二つ、しているだろう?」
兄の手の温かさとその言葉にどきりとする。
「…男子校ですから…出会いもありませんし…」
当たり障りのないように否定する。
礼也は可愛くて仕方がないように暁を見つめ、大紋に話しかける。
「暁は控えめだから自分でひけらかしたりしないんだが、夜会でもお茶会でも若いご令嬢の人気の的なんだ」
暁は慌てる。
「兄さん!」
「暁が出席するのとしないのとでは、若いご令嬢達の出席率が全く違うと、情報通の某夫人に言われたほどさ」
大紋は穏やかに微笑む。
「…それはすごいな」
「…大紋さん!」
そして、優しいがどこか寂しさが透ける眼差しで暁を見て諭すように言った。
「…いいじゃないか。暁くんほどに美しくて、賢くて、人間性も素晴らしい若者はもてて当然だ。
…良い恋をしなさい。…美しく、輝くような魅力的な女性と巡り会うように…心から応援するよ」
「…大紋さん…」
暁は何か言いたげに大紋を見つめたが、それは上手く言葉にはならず、目を伏せてしまった。
礼也は呆れたように、大紋に釘をさす。
「お前は暁の恋の応援よりやることがあるだろう。
少しくらい人生を楽しめ。今度の夜会は私と一緒に行こう。…お前に似合いの素晴らしいご令嬢を紹介するよ」
「…礼也…」
礼也の悪気のない世話焼きに閉口していると、突然ウェイターの案内で礼也の会社の秘書が現れた。
「お楽しみの所、申し訳ありません。ご無礼をお許しください」
「どうした?小林」
秘書はやや焦った様子で、礼也に早口で伝える。
「貨物トラブルです。晴海埠頭に着いたフランスからの輸入家具が、発注のものと全く違うのです。あちらの責任者と話をしようものにも…フランス語が話せる社員が今、神戸に出張しておりまして、話が通じないのです。…お寛ぎ中、申し訳ありませんが、社長にお運び頂く訳にいかないでしょうか?」
恐縮する社員に、礼也は嫌な顔一つせず頷く。
「分かった。すぐに行く」
そして、暁と大紋に済まなそうに詫びる。
「悪いな。春馬はこのまま暁と食事を楽しんでくれ」
「大丈夫なのか?」
「ああ。私が直接話してくるよ。…暁、私の分のデザートも食べてくれるか?…お前はもう少し太った方がいいからな」
そうユーモアたっぷりに告げると暁の頭を優しく撫でた。

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