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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
自宅への道を足早に急いでいた月城は、小径の角を曲がり門柱の前まで来て、眼を見張った。

「暁様!」
…暁が、春の雨に濡れながら玄関先で佇んでいたからだ。
慌てて駆け寄ると、暁は少し恥ずかしそうに笑った。
「…良かった…帰ってきた…」
月城は暁の肩を掴む。
上質なフランネルの上着はしっとりと湿っていた。
暁のつややかな黒髪は、銀色の雫が垂れるほど、濡れていた。
「いつからここに…⁈…いえ、そんなことより、早く中にお入りください」
暁を抱きかかえるようにして中に入る。
そのまま浴室に連れて行き、上着を脱がせるとタオルで髪を素早く拭く。
「申し訳ありません。先ほど、緊急の連絡が入り屋敷に一度顔を出していたのです。…まさか、暁様がお待ちくださっていたとは…。
寒くありませんか?…お手が冷たいですね。お風呂に入られたほうがいいです。今、沸かします。
…あ、まずは温かいお茶を召し上がってください…」
暁はくすりと笑う。
「…?」
「そんな矢継ぎ早に話されたら、答える暇がない」
月城は少し赤くなる。
「すみません。…慌ててしまって…」
言いながら手は止めない。
暁の髪をしっかり拭くために、月城は暁を抱き込むように向かい合わせになる。
暁の潤んだ黒目勝ちの瞳が月城の目の前にあった。
その美しさに思わず暁を引き寄せようとして、はっと我に帰る。
胸の鼓動が止まらずに、髪を拭く手がいきなりぎこちなくなる。
暁にもその気持ちは伝染し、照れたように俯いて呟く。
「…自分で…拭ける…」
「は、はい…」
月城はぎくしゃくとタオルを渡す。

…不思議だ…。向かい合うだけでどきどきするなんて…。
セックスでもっと露骨に恥ずかしいことをしているのに…。
二人は同時に見つめ合う。
月城は眼を伏せて、そっと告げる。
「…お茶を…入れます…」
そのまま台所に向った。

暁はすらりと美しい月城の背中を眺めた。
…なんだか照れているような、戸惑っているような不思議な背中だ。
いつもの冷静沈着な月城とは違う…。

暁はこそばゆいような気持ちで、月城の出してくれた着替えのシャツに着替える。
暁より10センチは背が高い月城のシャツは大きくて、ぶかぶかだ。
爪先も出ないシャツを着て、暁は小さく笑う。
そして愛おしげにシャツを着た自分の腕を抱く。
…月城に、抱かれているみたいだ…。
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