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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
やや湿り気を帯び、花の香りを含んだ夜風が暁の頬を擽る。
春のそよ風が熱っぽい額を優しく撫で、暁はそっと瞼を開いた。
…暁は寝室の褥にきちんと寝かされていた。
身体はさらりと乾いており、白い夜着を着せられている。

暫くして夜目に慣れ、横になったまま首を巡らすと部屋の縁側に人影を認めた。
障子が開け放たれた縁側に、こちらに背中を向けて庭の桜をぼんやりと眺める月城がいた。
月城は手にした煙草を時折、くゆらせる。

…月城…煙草を吸うんだ…。
自分の前では決して見せない姿だ。

…以前にもこんな光景を見たことがある…。
あれは…

…軽井沢の春馬さんの別荘だ…。
大紋は暁を獣のように執着深く抱いたあと、ぼんやり庭を眺めながら、煙草を吸っていた。

…酷く寂しげな背中だった…。

月城も…
…同じように寂しげな背中と…そして苦しげな横顔を見せている…。

暁の胸がずきりと傷む。
…春馬さんと同じ表情だ…。
事後の彼はいつも苦しげな表情をして、遠くを見ていた。

…なぜ…なぜ…
…なぜ自分は、愛する男にこんな表情をさせてしまうのだろうか…
なぜ、幸せな表情をさせてあげられないのだろうか…

暁はひたひたと押し寄せる悲しみに涙を堪える。
…自分が関わると、彼らを不幸にしてしまうのだろうか…

…月城は…
後悔しているのではないだろうか…
男の自分を抱き、慰めることが重荷になっているのではないだろうか…

それを証拠に、月城はまだ一度も好きと言ってはくれない。
…自分という存在を認めるつもりはないのだろう…
もしかしたら、月城はまだ梨央を愛しているのかもしれない…

次々に負の疑惑が湧き、暁はそっと己れの身体を抱く。
あんなに抱かれたのに、この身体にはもう月城の熱も温もりも匂いも残ってはいない…。

…そして、こんなに側にいるのに、暁は月城に手を伸ばすことができない…
身体だけの繋がりの自分が、恋人のように甘えるわけにはいかないからだ。

…寒い…寒くて、堪らない…
月城に抱き締めてほしい…
月城に温めてほしい…

…でも…
暁は首を振る。
…けれど、情事が済んだ自分を月城はもはや抱き締めはしないだろう…
月城に拒まれる自分を想像し、暁は子どものように怯える。
…暁は静かに自分を抱き締めながら、再び瞼を閉じた…。
夜の蓮の花のように白い頬に、透明な涙が一粒落ちた。







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