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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
光は悪戯めいた表情で笑う。
「勿論、礼也さんは素敵よ。世界一の旦那様だわ!」
長い睫毛、高貴な血統書付きの猫のような魅惑的な瞳、貴族的な鼻梁は美しい造形で、唇はやや下唇がふっくらとしていて艶めいている。
髪を結い上げているので真っ白で華奢なうなじが眩しいほどだ。
…兄さんが夢中になるのも無理はないな。
光さんは本当にお美しい…。
まるで煌めくダイヤモンドのような方だ。
暁は光より一歩遅れながら、大階段を昇る。

光からは高価な外国の香水の香りが漂う。
シャンパンゴールドのイブニングドレスの腰は豊かで正に母性と女性美を感じさせるものだった。
女性に興味がない暁にとっては、全く性的魅力を感じないが、世の男性ならきっと光のような美しく女性らしい身体に惹かれるに違いない。

…月城もそうだろうか…。
図らずも暁の胸がつきりと痛む。

…あの夜以来、暁は月城の自宅を訪れてはいなかった。
あの寂しげな苦しげな月城の背中と端正な横顔を見てしまった暁は、もう男の自宅に行く勇気を出すことが出来なくなっていたのだ。
月城の優しさに甘えることも、もはや出来ない。

だから月城には会っていない。
暁が行かないと、月城には会えない。
月城は北白川家の執事だし、職場でもプライベートでも接点がない。
馬場が唯一会える場所だっだが、こちらにも暁は脚を運んでいなかった。
…当たり前のことだけれど、僕が月城に逢いに行かないと、ずっと逢えないんだな…。
…月城が僕に逢いに来ることはありえないから…。

改めてその事実を噛みしめると、やるせない寂寥感が押し寄せる。
…月城は…ほっとしているかもしれない。
もういい加減、自分の主人でもない男のお守りから解放されて…。


大階段の一番上まで昇りきり、光が廊下を歩く脚を止め、何かを思いついたかのように傍らの暁を振り返った。
「…暁さん、良かったら私のお部屋で少しお話しない?」
「…え?」
意外な申し出に暁は戸惑う。
光は姉のような優しい眼差しで暁を見上げる。
「暁さんと、二人きりでゆっくりお話をしたことがないから…。折角私たち、姉弟になったのですもの。
色々お話をして、暁さんのことをもっともっと知りたいわ」
無邪気な光の言葉に暁の表情が止まる。
…姉弟…か…。
暁は改めて、光を見つめた。
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