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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
暫く男達は黙って見つめあった。
ややもして、ふっと視線を外したのは大紋だった。
「…君が羨ましいよ…。堂々と暁への愛を語れる君が…」
…僕もそうなりたかった。…だがそれはもはや叶わぬ夢だ…
と、大紋は寂しく笑った。
「思えば僕はずっと君が羨ましかったような気がする。
…君と暁の間には、見えない絆のようなものがあった。
二人とも、それにはずっと気づかなかったようだがね…。
だから、いつも君の存在に少し脅威を感じていた。
…僕は暁から一方的に奪うことしかできなかった。
挙句の果て、暁を苦しめ、哀しませることしかできなかった。
…僕は、良い恋人ではなかった」
大紋の言葉と表情に苦渋の色が浮かぶ。

咄嗟に月城は口を開いていた。
「それは違います」
大紋が怪訝そうに眉を寄せる。
「…それは違います。…大紋様と暁様は本当にお似合いのお美しい恋人同士でした。私はいつも夜会でお二人を拝見する度に見惚れておりました。
…お二人の間には間違いなく美しい愛がありました。大紋様が暁様を大切にされているのも分かりました。
暁様は、ずっと大紋様を愛しておられました。…お辛い思いをされても、ずっと貴方様を思っておられました。
恐らく、暁様は大紋様を今でも心のどこかでお慕いされておられるでしょう。
…初恋は、忘れられないものなのですから…」
大紋の切れ長で知的な瞳が信じられないように見開かれ、それから破顔した。

「…君って人は…!…大したものだな。好きな人のかつての恋人をそこまで賞賛できるのか」
…負けたよ…と、大紋は寂しげではあるが、どこか吹っ切れたように笑った。
そして、しみじみとした温かい声で告げる。

「…暁を頼む。…幸せにしてやってくれ。
暁はその貌だけでなく、心も美しく優しい人だ。
自分より他人の幸せを優先するような…そんな健気な人だ。だから、誰よりも幸せになって欲しいのだ。
…僕にはできなかったことを…君に託すよ…」
月城は間髪入れずに頷いた。
「はい。私の命に代えましても」
大紋はやや眩しげに月城を見て、ありがとうと呟くと、ゆっくりと立ち上がる。
花束は置かれたままだ。

月城は思わず声をかける。
「暁様にお会いにならないのですか…?」
「…いや、いい。…暁を心配する役目はもう君のものだ。
僕ではない」
月城の肩に手を置く。
「…暁を頼む」
彼はもう一度繰り返した。
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