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暁の星と月
第3章 暁の天の河
暁は兄のベッドにゆっくりと横たわる。
清潔に洗濯され、皺一つなくきちんと糊付けされたリネンからは、なぜか兄の愛用のフレグランスの薫りがした。
暁は瞼を閉じて、リネンをそっと撫でる。
「…兄さん…」
そして…
再び、小机の上の写真立ての梨央を見つめる。
…奇跡のように美しい少女…
いつか、この少女はこのベッドで、兄と眠るのだろうか…
いつか…あの逞しい兄の胸に、抱かれるのだろうか…
暁の胸は錐で刺されたかのように激しく痛んだ。

そして、考える。
…上流階級の令嬢の結婚は早い。

先日も、
「礼也様と梨央様のご婚約もそろそろかしらね…?」
「あら、でも梨央様はまだ14歳でしょう?」
「やんごとない方々のご婚約は7歳でも珍しくないわ。…礼也様も近々にと考えていらっしゃるはずよ。礼也様と梨央様のご結婚は大旦那様の悲願でもあるのだし、時間の問題だわ」
と言うお喋りなメイド達の会話をふとした弾みで聞いてしまったのだ。

…兄さんが梨央さんにプロポーズする日もそう遠い日のことではないのかも知れない。
その時、僕は冷静にその事実を受け止められるのだろうか…。
梨央さんを恨まずにいられるのだろうか…。

暁は起き上がり、首を振る。
…無理だ…。
兄さんが他の誰かのものになってしまうなんて…耐えられない…。
そんな醜い嫉妬心を抱く自分に、何より絶望する。

…早く…早くなんとかしなければ…
これ以上、兄さんを好きにならないように…
兄さんから、離れられるように…
僕は決断をしなくてはならないのだ…。

暁はベッドから立ち上がり、琥珀色の天鵞絨のカーテンを開いた。
…窓には儚い夢の入り口のような、細い三日月が浮かんでいた。

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