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暁の星と月
第3章 暁の天の河
「…わざわざお迎えに来て下さるなんて…」
暁は恐縮しながら、促されるままに大紋にボストンバッグの荷物を渡す。
「僕もさっき軽井沢に着いたんだよ。だからついでだ」
大紋は優しく笑いながら暁に気を使わせないように説明した。
白い麻のスーツ姿の大紋はりゅうとして粋な大人の男の魅力に満ち溢れている。
スーツに合わせたパナマ帽も大紋の端正な容貌に良く似っていた。
「ありがとうございます…」
暁が嬉しそうに微笑みかけるのに、大紋は照れたように視線を逸らせた。
暁は夏服の白い開襟シャツに黒いスラックス姿という簡素な服装だが、だからこそ生来の美貌が光り輝くようだった。
大紋は暁を助手席に乗せながら、さり気なく尋ねる。
「…さっき一緒にいた生徒は…友達?」
「…風間先輩ですか?三年生の先輩です」
「風間…もしかして、ホテル・カザマの息子か」
「ええ。よくご存知ですね」
「父が顧問弁護士をしているからね」
「…そうなんですか…」
…世間は狭いんだな…と暁が感心していると、大紋が車のエンジンを掛けながら、少し焦れたように尋ねた。
「…仲がいいの…?風間くんと」
「…え…?」
質問の意味がよく分からずに、大紋の顔を見上げると、意外なほど真剣な…やや怒っているような表情をして暁を見つめていた。
「…いいえ。先輩ですし、殆どお話したこともありません。…今日は珍しく先輩が話しかけて来られて…。
そういえば、先輩も軽井沢の別荘に滞在しているから、遊びにおいでと言われました」
「行くの?」
…心配でたまらないといった声色だ。
暁は大紋が不意に可愛らしく思え、安心させるように答えた。
「…いいえ、行きません」
「…そう…」
安堵したような声で息を吐く。
そして大紋はゆっくりと車を発進させた。
白樺の木々の青々とした枝葉のアーチの下を走り出す。
真夏の日中だというのに、風は爽やかで心地良い。
思わず、緑豊かなの森の景色に目を奪われていると、膝に置いた手が温かな温もりに包まれた。
…見ると、大紋が片手ハンドルで運転しながら暁の手を握っている。
そして、視線は真っ直ぐ前を見ながら呟く。
「…良かった…」
率直な大紋の気持ちが、その言葉と手の温もりから静かに伝わる。
暁はそっと、大紋の手を握り返した。
暁は恐縮しながら、促されるままに大紋にボストンバッグの荷物を渡す。
「僕もさっき軽井沢に着いたんだよ。だからついでだ」
大紋は優しく笑いながら暁に気を使わせないように説明した。
白い麻のスーツ姿の大紋はりゅうとして粋な大人の男の魅力に満ち溢れている。
スーツに合わせたパナマ帽も大紋の端正な容貌に良く似っていた。
「ありがとうございます…」
暁が嬉しそうに微笑みかけるのに、大紋は照れたように視線を逸らせた。
暁は夏服の白い開襟シャツに黒いスラックス姿という簡素な服装だが、だからこそ生来の美貌が光り輝くようだった。
大紋は暁を助手席に乗せながら、さり気なく尋ねる。
「…さっき一緒にいた生徒は…友達?」
「…風間先輩ですか?三年生の先輩です」
「風間…もしかして、ホテル・カザマの息子か」
「ええ。よくご存知ですね」
「父が顧問弁護士をしているからね」
「…そうなんですか…」
…世間は狭いんだな…と暁が感心していると、大紋が車のエンジンを掛けながら、少し焦れたように尋ねた。
「…仲がいいの…?風間くんと」
「…え…?」
質問の意味がよく分からずに、大紋の顔を見上げると、意外なほど真剣な…やや怒っているような表情をして暁を見つめていた。
「…いいえ。先輩ですし、殆どお話したこともありません。…今日は珍しく先輩が話しかけて来られて…。
そういえば、先輩も軽井沢の別荘に滞在しているから、遊びにおいでと言われました」
「行くの?」
…心配でたまらないといった声色だ。
暁は大紋が不意に可愛らしく思え、安心させるように答えた。
「…いいえ、行きません」
「…そう…」
安堵したような声で息を吐く。
そして大紋はゆっくりと車を発進させた。
白樺の木々の青々とした枝葉のアーチの下を走り出す。
真夏の日中だというのに、風は爽やかで心地良い。
思わず、緑豊かなの森の景色に目を奪われていると、膝に置いた手が温かな温もりに包まれた。
…見ると、大紋が片手ハンドルで運転しながら暁の手を握っている。
そして、視線は真っ直ぐ前を見ながら呟く。
「…良かった…」
率直な大紋の気持ちが、その言葉と手の温もりから静かに伝わる。
暁はそっと、大紋の手を握り返した。