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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
「もう大丈夫ですよ。手を取らせてしまって、すみませんでした」
「いえいえ。……と、チーク、やっぱりお姉さんが一番似合っていますね」
「分かるんですか?!」
「もちろんです。そんなにいかにもストロベリーなピンク色、私はこのシリーズしか見たことないです」
確かに私が刷いているのは、先月ここで購入したストロベリーミルクのチークだ。淡いピンク色でも原色を薄めたそれではなくて、本当によくある紙パックに入ったそれを彷彿とする発色なのだ。気に入っている。つばきさんの唇が頰に触れた時も、このチークをつけていた。
「実は私も使ってます」
「…──?」
「フレッシュオレンジなんですけどね」
優川さんの銀色のラメが煌めく爪が、彼女の弾ける果実のような顔を指した。正確には、彼女のオレンジジュースのような艶の頰を。
「チープコスメにしては粒子がこまかくて、使いやすいですよね。私も気に入っちゃって。お揃いですね」
「……は、はい……」
私は巡回の業務も失念して、随分と長い時間を感じながら頷いていた。
優川さんの笑顔を見る度、胸が締めつけられていた。溌剌とした声が、好きだった。きびきびとした立ち振る舞いが、雰囲気が。
今でも顔を合わせると肩に力が入るのは自覚出来る。つばきさんに出逢ってさえいなければ、きっと今でもふと思い出すのは優川さんだった。
諦めたのにずるい。
違う、ずるいのは私か。私は自分に優しく接する人であれば惹かれるのか。それとも、本音を伝えられないような人のことは忘れていくのか。それなら、想いを伝えられないつばきさんのこともいつか忘れる?
今週末、つばきさんと会う予定はない。つばきさんは土曜が出勤、日曜日が休暇だ。せめて土曜日に行けばいつもより長くパティスリーHamadaにいられるのに、つばきさんの翌日の準備の邪魔になりたくなかった。