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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
マカロンが私の薬になっている。
つばきさんのマカロンは、バッグに潜ませているだけで、私に余分な思考の作動をとどまらせる。例の傲慢な煩悶に聞き手を巻き込む口舌も、許容量を超えてきらびやかな環境も、このところ私はものともしないで受け入れるようになっていた。
恋愛は単身では成立しない。
分かっているはずなのに、私はつばきさんの手に生み出された結晶を持ち歩いている間、誰に評価されるのでもない、彼女と繋がっているだけの存在になれる。
「あ、……」
私は、開放感溢れるコスメショップの店先に足を止めた。
「すみません、こちらの什器、もう少し中に引っ込めていただくことは出来ますか?」
「え?あぁ」
見慣れない顔の従業員は、私の姿を認めるや、慌てた様子で店内に視線を巡らせた。
事務員は所属が判りづらい。首から下げた入館証が、初めて私を説明する。
目新しい女の子の合図に応えて、駆けてきたのは優川さんだ。安堵と同時に、申し訳なさが押し寄せる。
「ごめんなさい、すぐ直します」
「いえ、こちらこそ……」
「規則ですから。今朝の納品が思っていた以上に多くて、なんて、言い訳は出来ませんもんね」
「有り難うございます……」
発泡スチロールのパネルは細腕の女性達でも、一人で運べる重量だ。ただしサイズがある分、二人がかりで動かしている現場を見ると、やはりいたたまれなくなった。
サービス業は大変だとつくづく思う。お客さんの質問、要求、時にはクレーム。商品の管理もあるし、予期しない自体がいつ起こり得るかも分からない、まさしくナマモノの業務だ。私の抱えてきたものなど所詮は独りよがりの些細な忿怒で、彼女らにしてみれば却って理解し難いほど抹消的かも知れない。
今更そう思えるようになったのは、やはりバッグに潜ませている薬のせいか。私をあらゆるものから保護する、密やかな宝石。