この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
私には私の定位置があって、かの人にはかの人の定位置がある。
つばきさんの天秤は、その傾きが彼女の配偶者に著しくなったところで、私の皿が重みをなくすことはないと信じてきたから、彼女の口から飛び出す男の名前を耳にしても、私は心中穏やかだった。
ブログにしても、仕方がなかった。
私が動画を配信する際、需要層に応じたユーザーを気取っているのと同様、つばきさんもお客さん達の理想である必要がある。ことにマカロンの専門であるパティシエが、結婚記念日にパートナーのための丹精込めたマカロンタワーを披露するのは当然のこと、しない方がもったいない。
割り切った私の口振りは、おそらくあくまで無邪気だった。
マカロンタワーのプレゼント、憧れるなぁ。…………
私がつばきさんの聴覚内で呟いたのは、彼女がことごとくロマンティックで豪奢なデートを満悦した翌週のことだ。先週末は控えていたつばきさんへの接触を、例のイベントが終わった途端、私は何事もなかった顔で解禁していた。
「星音ちゃんなら、ストロベリーとバニラかな」
「えっ……」
「挿し色にフランボワーズなんか入れても良いかも。うーん、星音ちゃんなら必死で写真とか撮ってくれそうだから、思いっきり可愛いのを考えないと……」
パティスリーHamadaは、ラストオーダーを終えていた。定時に上がって、少し街を散策したあと顔を出した私の他にお客さんの姿はなく、今は従業員らも厨房の片付けを始めている。従って、店には二人だけだ。