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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
「作ったら動画にしてくれる?」
「まずくないですか」
「どうして」
「スキャンダル」
「スイーツくらい、配偶者じゃなくても作るわよ」
後ろめたいと思うから、後ろめたいのだ。言われてみると、別段、やましいことではない。
日曜日は私が勝手に盛り上がって、悋気して、ことあるごとにつばきさんと同じ屋根の下に住んでいたならといった想像を巡らせているだけで、彼女にしてみれば配偶者にしていることなどごく日常の作業に過ぎないのかも知れない。現に今、私は例のごとくつばきさんの手製のプティガトーにフォークを入れている。
「それに作りたいの。星音ちゃんに。そういうことでもしないと、改めて、好きって伝える機会も持てないもんね」
「つばきさん……。えっ、え……?!」
「星音ちゃんは、いや?」
「──……」
頭の整理が追いつかない。
私には、つばきさんの好きなところが数えきれないまでにある。関わればどうしようもなく幸福で、あまつさえ独占したくなる発作に悩まされることもある。他の人間に触れさせたくない、彼女が誰かと一緒にいるところを考えただけで、胸が捻り潰されそうになる。私だけを、つばきさんのものだけにしていて欲しい。
この欲望の原動力が好意でなければ何だというのか。
いざ説明するとなると難しいものの、私の中で、歯車とは噛み合わないものだと相場が決まっていた。私が好意を寄せたところでそれは一方通行で、それが安全圏でもあった。
配偶者を持つ人と、肉体関係から始めてしまった。そこに慚愧はなかったのに、この期に及んで、私は羞恥を感じている。
狂おしいほど好きになること。狂おしいほど、誰かのものになりたいこと。
私の中の私が私のものでなくなる変化は、ある種の羞恥を伴っている。俗に言う、照れ臭い、という感情か。
「いやなはずないです。楽しみです」
「そう。じゃあ、今度のデート、期待していてね」
閉店時間が迫った。
この日も私はつばきさんが最後の業務を進める姿を眺めたあと、彼女とシャッターの閉まった店をあとにした。
職場の近い私達は、相変わらず改まってデートの約束をしない。ただ昼間から会える日を暗黙の内に求めたがる私達は、容易く次の祝日に会えるよう予定を立てた。